聴き手をたちまち魅了する
「魔性」の音楽を奏でる18歳

 シャネルの創始者であるガブリエル(ココ)・シャネルはアーティスト支援者としても有名で、彼女がパトロネスとなって支援した芸術家は無名時代のピカソ、ストラヴィンスキー、作家のラディゲ、映画監督のヴィスコンティ、詩人のジャン・コクトーと錚々たる名前が並ぶ。

 このスピリットにもとづき、シャネルでは銀座の「シャネル・ネクサス・ホール」で若手アーティストにリサイタルの機会を提供するプログラム「シャネル・ピグマリオン・デイズ」を2005年からスタートさせている。これまでに73名のアーティストがここで経験を積み、音楽家としてさまざまな活躍を果たしている。

 シャネル・ネクサス・ホールで行われるコンサートでは利潤はまったく追求されず、純粋に音楽家の成長と支援が目的なので、お客さんのチケットも無料(毎回多数の応募があり、抽選制となっている)。2018年はヴァイオリニスト2名、ピアニスト2名、テノール1名が「シャネル・ピグマリオン・デイズ」のアーティストとして選ばれた。

 その中でも18歳と最も若く、ユニークな音楽性で注目を浴びているのがピアニストの太田糸音だ。2000年に大阪に生まれ、幼少期から多くのコンクールで連続優勝を果たし、現在飛び級で東京音楽大学器楽専攻(ピアノ演奏家コース・エクセレンス)に在学中。4月に行われたマルタ国際ピアノコンクールでは2位を受賞したばかり。

 計6回行われるシャネルの演奏会ではすでに4回のパフォーマンスを披露しているが、彼女の音楽性には、際立ってカラフルなイマジネーションが息づいている。

「両親が二人ともヤマハの講師をつとめていたので、とりあえず幼児科に入れてみようということで5歳からピアノを始めました。当時弾いていたのはギロックやブルグミューラーなどでしたが、今でもギロックは好きですね。同じクラスの子たちがコンクールを受けていたので『ちょっと私もやってみようかな』と思ったら、11年も連続してピティナ・ピアノコンペティションに出場することになったんです」

2018.07.25(水)
文=小田島久恵
撮影=深野未季