デビューCDのタイトルはずばり『リスト』
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卓越したテクニックと若手には珍しいほど成熟した音楽的センスで、クラシック界久々の大物新人として注目を集めてきた20歳のピアニスト、反田恭平。
2015年7月に堂々のデビューCD『リスト』をリリースし、「ラ・カンパネラ」「愛の夢」「スペイン狂詩曲」といった名曲を、魅惑的かつ悪魔的なタッチで聴かせる。アルバムの明快で簡潔なタイトルからは、最重量級の「ピアノの王者」リストの曲のみで録音したプライドと、この作曲家への深い愛着が窺える。
「リストを選んだ理由は、他の作曲家に比べて本番で弾いた回数が一番多かったからです。リストは膨大な数の曲を書いたので、選曲には色々な候補があったのですが、最終的には自分のお気に入りの曲を選びました。基本的に苦手な作曲家はいません。リストは晩年期の作品に特徴があって、宗教的な色彩感が増していくんです。僕自身、教会の鐘の音が好きですし、留学してからは寮の傍に教会があることもあって『ラ・カンパネラ』の鐘の音がより強くイメージできるようになりました」
留学先は、ロシアの名門モスクワ音楽院。2014年に首席で入学し、現在はモスクワと日本を行き来する生活を送る。音楽院の教授陣も、若き反田の才能に大きな期待を寄せている。
「1年の予備科を経て、入学試験に臨みました。3曲弾く予定だったのですが、バッハの『平均律クラヴィーア』とショパンの『エチュード』を弾いたところから、審査員がざわつき始めて……次のシューベルトのソナタは弾かなくてもいいと言われたんです。実は一番力を入れて準備していたのがシューベルトだったので『俺はそんなに下手だったのか』と落ち込み、すっかり落とされたと思っていたんです。皆は用意してきた曲を全部弾いているんですよ。そのあとメールが来て……どうやら合格したらしいと知ったときはほっとしました(笑)」
2015.08.10(月)
文=小田島久恵