その“カリスマ的”演奏で
世界中の音楽ファンが虜に

 若手世代のクラシック演奏家の台頭がめざましい現在、緻密で本質的な音楽解釈とドラマティックな表現力で大きな注目を浴びているのが1995年生まれのヴァイオリニスト、周防亮介さんだ。

 ローティーンの頃からクロスター・シェーンタール国際ヴァイオリンコンクールで1位と2つの特別賞を得るなど、天才少年として期待を集めてきたが、国際的に大きな注目を浴びるきっかけとなったのは2016年にポーランドで行われたヴィエニャフスキ国際ヴァイオリンコンクールで、周防さんは入賞及び審査員特別賞を受けた。

 ポーランドの聴衆を熱狂させ、魅了した様子はインターネットで映像配信され、「この個性的なヴァイオリニストは誰?」と世界中の音楽ファンを虜にしたのだ。

 1678年製のニコロ・アマティから魔法のような音を放ち、オペラの合唱、ソロ、オーケストラすべてをひとつの楽器から生み出すイマジネーションは、まさに「カリスマ的」。その美意識と感受性はどのようにして育まれたものなのか……留学先から帰国中のご本人にお聞きした。


 2年間留学していたメニューイン国際音楽アカデミーを卒業し、スイスから帰国していた周防さん。アカデミーではスター的なヴィルトゥオーゾ・ヴァイオリニスト、マキシム・ヴェンゲーロフ氏の指導を受けられていた。

「あっという間の2年間でした。家族みたいな学校で、生徒は14人くらいしかいないので、みんなで意見を出し合いながら、一緒に室内楽や室内オーケストラの勉強もやっていくんです。

 生徒はヴァイオリンとヴィオラとチェロを学んでいて、そのうちヴァイオリンが7人。マキシム・ヴェンゲーロフ先生は基礎的なことはとても厳しく仰るのですが、音楽的なことは生徒の自由を尊重して、パーソナリティを大切にしてくださる指導法でした。

 レッスンは真剣で、怖かったです。ヴェンゲーロフ先生の目が変わるというか……それだけ愛情をもって一人一人の生徒に伝えようとしてくださるんですね。

 アカデミーで学んだ2年は、振り返ってみるととてもいい環境でした。最後に演奏会があったのですが、それまで勉強してきた仲間と一緒に演奏できる機会はこれが最後だと思うと、胸に迫ってくるものがありましたね」

 穏やかな語り口で、恩師や学友たちとの時間を語る。ホームステイ先の家族からも好かれ、最後は涙の別れだったという(シャネル・ネクサス・ホールで行われる秋のコンサートには、ホストファミリーも来日予定だと嬉しそうに語る周防さん)。

 「感謝」という言葉が幾度も語られるのが印象的だ。厳しい指導も、見知らぬ土地でともに暮らすことも、「感謝」として受け取る心の持ち主なのだ。

2019.10.09(水)
文=小田島久恵
撮影=深野未季