放課後6時間のレッスンも
苦にならなかった

 京都に生まれ、7歳からヴァイオリンを始めた。「プロを目指すには遅いスタートだった」と語る。

「早い方は3歳くらいから始めていますから。初めてヴァイオリンを手に取ったのは5歳のときで、子供のための演奏会で楽器の体験コーナーがあって、そこで初めて触れてみたんです。

 すぐにやりたいと親にお願いしたんですが……母親がピアノ教師で、学生の時に副科でヴァイオリンを習っていたので『すごく難しくて音も出ないから』と、なかなかやらせてもらえなかった。

 それでも何度も『習いたい』と言うので、やっと7歳の時に町の先生の教室で習わせてもらいました。両親は1カ月くらいでやめると思って『いいよ』と言ったらしく、まさかこんなに続くとは思っていなかったみたいです(笑)。

 最初の頃は母親の伴奏で20分ごとに休憩を入れて練習していました。集中力が途切れない練習法がよかったのか、『もっともっと練習したい』と楽しみながら続けることが出来たんですね。

 小学2年生から5年生までは、普通に楽しく学校にも行っていましたし、サッカーや水泳や剣道も習っていて、塾にも通わせてもらっていました。

 5年生のときに本格的にレッスンを始めることになって、そこから生活が一変しました。先生が代わって1回5~6時間のレッスンが週3回になり、夕方6時くらいに始まって、11時とか11時半に終わるんです。

 最初の3時間に基礎をやり、そこでテクニックをとことん訓練して、その後に曲を聴いていただく。レッスン前と後で夜の食事が2回になってしまったため、とても太ってしまって。

 帰って宿題もやって、次の朝も普通に学校に行っていたので、寝る時間はほとんどなかったですね……先生のご自宅の近所に両親と引っ越して、ヴァイオリン中心の生活を過ごしていました」

 寝る間も惜しんで稽古と練習を続ける日々。それでも「ヴァイオリンをやめたい」と思ったことは一度もなかったという。

「子供ながらに『一生懸命教えてくださるのだからそれに応えよう』と思っていたんです。家同士が離れた京都の田舎で暮らしていたので、友達と遊ぶことがあまりなかったのも、練習に没頭できた要因かも知れません。

 一人遊びをすることが多くて、その延長にヴァイオリンがあったんです。母が若い頃に買ったクラシックの名曲全集が封を切らないまま家においてあったので、ひとつずつ開封してオーディオで聴くのも楽しみでした」

2019.10.09(水)
文=小田島久恵
撮影=深野未季