実はフレンドリーで笑い上戸
ドロテ・ジルベールは美しい女性だった。驚いたような大きな瞳は表情豊かで、低めの落ち着いた声で話す言葉はウィットと思いやりに溢れている。
世界最高峰のパリ・オペラ座バレエ団の頂点であるエトワールになってから11年。トップで輝き続けているスーパー・バレリーナは、舞台から降りると呆気ないほどフレンドリーで笑い上戸なのだ。
自然体でそこにいるだけで、空間全体が完璧な絵のようになる。白い普段着のドレスも、ハイブランドのものではないのに、彼女が着ると素晴らしくスタイリッシュになる。舞台では色白に見えるが、間近で見る肌は健康的な小麦色だ。
「日焼けしやすい体質だけど、これはバカンス焼けではないんです。母親がスペインの血をひいているので、どの季節も肌が真っ白であるということはないの。でも、舞台では身体に何も塗っていないですよ。照明で白く見えるのかも知れないわね」
今年は「ル・グラン・ガラ」「第15回 世界バレエ フェスティバル」とドロテを日本の舞台で観ることのできるチャンスが多い年だった。現在35歳の彼女は、踊り手としての円熟期にさしかかっている。少し前まで活躍していた先輩エトワールたち……アニエス・ルテステュ、イザベル・シアラヴォラ、マリ=アニエス・ジロは次々と引退し、「同僚」だったオーレリー・デュポンはオペラ座の芸術監督になった。
「彼女たちがダンサーを引退したことで、私の踊りに何か影響が出るということはないんです。国内でも外国の公演でもずっと自分の踊りに集中してきたし、上の世代がいなくなったから責任が重くなると感じたことはないわ。私自身は、エトワールになって以来、ほぼすべてやりたい役を踊らせてもらいました。成熟したと思うし、一度離れた役に再び取り組むときにも新鮮さを感じます。一度その役を経験していることで、スタート・ラインが既に高くなっているから、いい演技をすることが出来るんです」
2018.11.08(木)
文=小田島久恵
撮影=深野未季