ベスト・パートナーは誰だった?
パリ・オペラ座バレエ団でエトワールになれるのは一握り。それも、引退直前の年齢になってようやくエトワールになるというケースもある。23歳で頂点にゴールできた彼女には何か秘訣があったのだろうか?
「当時の芸術監督はブリジット・ルフェーブルでしたが、彼女から小さな役を代役でもらうたびに、全力で取り組んでいました。代役でも、いつチャンスが来てもいいように先生とレッスンをしておくんです。キャスティングが行われる前に、準備をしておくこともありました。そうすると、役が回ってきたときに『彼女はいつでも十分に踊れる』という印象を与えられるんです。チャンスだけでなく、才能が大事だという意見もありますが、パリ・オペラ座バレエ団くらいのレベルになると、下手なダンサーというのはまずいないわけです。指導陣の好みというものももちろんありますが、昇進試験では「あなたの踊りのここが好き・嫌い」ということを言われても、その中で一番いい踊りを見せればいいのだと思っていました。一番の踊りを見せれば、納得させられるのだと信じていたのです」
まさに闘いの世界……しかし、彼女にとって自分の敵は自分。意地悪なところなどまったくなく、初対面のインタビュアーにもとても優しく、気を遣ってくれる。オープンマインドな彼女にどうしても聞きたいことがあった。
これまで新旧の大スターと踊ってきて、誰がベスト・パートナーだった?
「それは時と場合によるの。役や技術によって変わるけれど……そうね。まずはマニュエル・ルグリ。彼は素晴らしいパートナーであるだけでなく、私を教育し、引き上げてくれました。そしてニコラ・ル・リッシュ。ルグリとは正反対のタイプだけど、凄いパワーがあって、長年私を応援し、支えてくれたダンサーです。そしてマチュー・ガニオ。昨年エトワールになったユーゴ・マルシャンは私より10歳若いけれど、彼も素晴らしいダンサー。芸術的な波長が合うし、これから踊る機会が増えることを願っています。マルセロ・ゴメスも最高ね。もう引退してしまったダンサーもいるから、みんなの名前を出してもOKよね(笑)」
笑いに溢れたインタビューの後、ドロテの方から名残惜しそうに戻ってきて、握手をしてくれたのは嬉しいことだった。自分に厳しく、果てしない挑戦を続けている彼女だからこそ、他人には優しいのだろう。
本当にビューティフルであるということは、どういうことなのか……舞台を降りても周りを幸せにするバレリーナの姿を見て深く考えた。
Column
小田島久恵のときめきクラシック道場
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2018.11.08(木)
文=小田島久恵
撮影=深野未季