リスナーの人生観を超えるほど衝撃的な演奏
クラシックはパンクであり、ロックである。そして何よりも「考える」ためにある音楽なのである……。
まだ若かった筆者にそう教えてくれたピアニスト、イーヴォ・ポゴレリッチは心の恩人。彼がいなければ、音楽にも芸術表現にもこれほど興味をもつこともなかったかも。古今東西、お気に入りのピアニストは多けれど、この人は別格中の別格です。
そのポゴレリッチが、間もなく日本でリサイタルを行います。とてもユニークなアーティストゆえ、彼の音楽と出会った後と前とでは、人生観が変わってしまうという人もいる。それほど衝撃的な内容なのです。
1958年旧ユーゴスラビアのベオグラードに生まれたポゴレリッチは幼い頃から天才の誉れ高く、16歳で名門モスクワ音楽院に入学。22歳のとき、ピアニストの登竜門ショパン国際ピアノコンクールに参加し、型破りな演奏で審査員を混乱の渦に巻き込んで、賛否両論の中、ファイナルへ進む前に予選落ちしてしまう。
その結果に激怒したピアニストのアルゲリッチは「彼は天才なのに!」と審査員を降りて帰国し、これは「ポゴレリッチ・スキャンダル」としてクラシック界の大きなニュースになりました。他の参加者が蝶ネクタイにスーツ姿で礼儀正しく登場するのに、彼だけはヒッピー風のラフな格好で演奏していたことも、コンクールでは大きな話題だったといいます。
2014.12.11(木)
文=小田島久恵