アドリアン・エレートの来日公演を立て続けに見られる喜び
1971年ウィーン生まれ。ウィーン音楽大学で声楽を学び、2003年からはウィーン国立歌劇場の専属歌手として活躍する。『魔笛』のパパゲーノ役、『ラインの黄金』のローゲ役などをレパートリーに持ち、世界的に高い評価を受ける。
ワーグナーからイタリアオペラまで幅広いレパートリーを持ち、世界中の歌劇場からラブコールが止まらない人気歌手アドリアン・エレート氏。卓越したハイ・バリトン(明るくつややかなバリトン)で、舞台では飄々としたキャラクターを演じるのが上手く、これまで新国立劇場の『コジ・ファン・トゥッテ』(モーツァルト)や『こうもり』(ヨハン・シュトラウス2世)、東京・春・音楽祭の『ニュルンベルクのマイスタージンガー』(ワーグナー)でも高い評価を得てきた。
2014年から翌年にかけて、立て続けに彼の活躍を日本で見られるのはファンにとっても大きな喜び。10月16日に初日を迎えた新国立劇場『ドン・ジョヴァンニ』(モーツァルト)ではタイトル・ロールである女たらしの貴族を演じているが、インタビューにあらわれた品行方正なエレートさんからは「世界中の女性を誘惑し、スペインでは計1003人もモノにした」すけこましの姿(!)は想像できない。
ようやく『ドン・ジョヴァンニ』を歌う機が熟した
――『ドン・ジョヴァンニ』の主役は、昨年ヒューストン・オペラでロール・デビューを飾ったそうですが、この役のためにどのような準備をしたのですか?
「実は、12年前にもこの役をウィーン・フォルクスオーパーで歌っているのですが、そのときはドイツ語での上演でした(オリジナルのオペラはイタリア語)。当時は、声楽的にもまだこの役を歌うべきではないと思っていましたが、去年ヒューストン・オペラからオファーを受けて『機は熟した』と感じたのです。『ドン・ジョヴァンニ』で一番重要なのはレチタティーヴォ(メロディーに合わせて台詞を喋るように歌う部分)だと思っています。そこから学ぶ部分も多いですし、歌手にとってはとても有り難い役ですよ」
『ドン・ジョヴァンニ』(2014年10月公演より) 撮影:寺司正彦/提供:新国立劇場
2014.10.21(火)
文=小田島久恵
撮影=山元茂樹