仙人のような存在感はカリスマそのもの
妻であり師であるケゼラーゼと96年に死別すると、ポゴレリッチにも大きな精神的危機が訪れ、一時期は再起不能の噂も流れました。
長期的なスランプを乗り越え、再び日本にやってきた2005年のリサイタルを、私は忘れることは出来ません……ゆっくりすぎるテンポ、楽器が破壊されるかのような強打、ピサの斜塔のような不思議な大建築をホールに現出してみせたポゴレリッチは、素晴らしくパワーアップしていました。この人こそ、神に選ばれし芸術家の魂をもつピアニストだ……そう確信せずにはいられなかったのです。
ここ数年、完全復帰した彼の音楽はいよいよ円熟期の凄味を増し、かつての美貌はもうないけれど、仙人のような存在感はカリスマそのもので、新しいファンも増えています。
サントリーホールでは、あの巨大な手でリスト「巡礼の年第2年『イタリア』から『ダンテを読んで(ソナタ風幻想曲)』」、シューマン「幻想曲」ハ長調op.17、ストラヴィンスキー「ペトルーシュカ」からの3楽章、ブラームス「パガニーニの主題による変奏曲」op.25を演奏する予定。
曲の解釈は素晴らしく論理的でありながら、音楽はつねにショッキングで、ときに破壊的でさえあるイーヴォ・ポゴレリッチ。クラシック音楽が「癒し」や「リラックス」のためにあるという考えを超えた、新たな価値観を気づかせてくれる、稀有の芸術家なのです。
イーヴォ・ポゴレリッチ ピアノ・リサイタル
会場 サントリーホール
日時 2014年12月14日(日) 19:00~
URL http://www.kajimotomusic.com/jp/concert/k=440/
小田島久恵(おだしま ひさえ)
音楽ライター。クラシックを中心にオペラ、演劇、ダンス、映画に関する評論を執筆。歌手、ピアニスト、指揮者、オペラ演出家へのインタビュー多数。オペラの中のアンチ・フェミニズムを読み解いた著作『オペラティック! 女子的オペラ鑑賞のススメ』(フィルムアート社)を2012年に発表。趣味はピアノ演奏とパワーストーン蒐集。
Column
小田島久恵のときめきクラシック道場
女性の美と知性を磨く秘儀のようなたしなみ……それはクラシック鑑賞! 音楽ライターの小田島久恵さんが、独自のミーハーな視点からクラシックの魅力を解説します。話題沸騰の公演、気になる旬の演奏家、そしてあの名曲の楽しみ方……。もう、ときめきが止まらない!
2014.12.11(木)
文=小田島久恵