「また聴いてみたい」と
思わせる中毒性

 まだ10代だが、天才少女としてピアノの世界では大きな注目を浴びてきた彼女。18歳となった今年、海外のピアノコンクールに参加し、2位という好成績を残したことは大きな前進だった。

「イタリアの南にあるマルタ共和国で行われたコンクールだったのですが、最初音楽祭だと思って参加申し込みをしたら、コンペティションだったんです(笑)。初めてひとりで海外へ行ったのはいい経験でしたね。そういうことも出来なければならないと思っていましたから。本選で弾くプロコフィエフの『ピアノ協奏曲第3番』はまだ譜読みが終わっていなくて、飛行機の中でも必死にスコアを読んでいました。着いてみるととても素敵なところで、一日ぶらぶら散歩していました(笑)。課題に現代曲もあり、暗譜で弾かなければならないので参加者全員が大変そうでしたが、なんとかファイナルまで進むことが出来て……結果を求めて参加したわけではなかったのですが、2位をいただくことが出来ました。家族そろって関西なので、どこか明るいノリがあるのかもしれません」

 太田糸音のピアノは個性的だ。ピアニストがまっすぐに曲の本質に入っていき、何かにとりつかれたような表情で幻想的な世界を表す。ラヴェルの『夜のガスパール』では、暗鬱な映像が見えるようだった。ショパンのバラードではめくるめく色彩の乱舞が描かれる。一度聴くと「また聴いてみたい」と思わせる中毒性があるのだ。

「20歳までに弾きたい曲、25歳までに弾きたい曲と色々決めているんですが、今どんどん増やしているのはリストとショパンです。リストはオペラのトランスクリプション(ピアノ版の編曲)である『ノルマの回想』を勉強したことで、ますます深いつながりを感じる作曲家になりました。ラフマニノフの『ピアノ・ソナタ第2番』も弾きたいですね。この曲を聴いているとすべてを忘れてしまうんです。ため息が溢れて、今どこにいるのかも忘れるほど入り込んでしまいます」

2018.07.25(水)
文=小田島久恵
撮影=深野未季