この記事の連載
- 赤澤かおりの鎌倉ひとり飲み #01
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職人技の見目麗しいカットと味付け!
ところで、若者じゃあるまいし、焼肉なんて翌日のことを考えたらもたれる胃袋が心配でそうそう行けないという話をたまに聞きますが、そんな人こそ、ここに行ってみていただきたい!
まぁ、とにかくもたれない。どんなにコクのある肉を食べても、です。脂の質がいいからいくら食べてももたれない、と大将の地代所宏幸さん。味付けはすべて大将がしてくれているので、テーブルの上には焼肉ダレなるものも一切なし。
焼いたらそのまま熱々をパクッ! ビールをグビッ! 「あぁ、幸せ」と、本気で声がもれますよ。
カウンターを埋め尽くすくらい大きな体でガハガハ笑う、人のいい大将との気ままなトークも楽しい焼肉&ビールタイム。店内に流れる80年代のベストヒットUSAを聴きながら、海風を感じつつというのもいいのです。
大将の口癖は「焼きすぎ出禁!」。私はさっと焼きが好きなので、何も言われませんが、うちのダンナはいつも「焼きすぎ、焼きすぎ!」と言われています。
でも、それくらいお肉に自信をもっているということ。カウンターからお店全体をよく見ていて、いろいろなテーブルに「もうそれいいよ!」と、おいしい頃合いを逃さないように焼きのタイミングの声かけをしたりしています。どんだけ肉愛が深いんだか。
お肉もそうですが、30代の初め頃までに和洋すべての修業をしてきた大将が作る、季節野菜のナムルも最高。野菜も摂らないと、と思っている人はまずこれを食べてみてください。何もかもがジューシーですから。
〆は青唐メシ。これがお腹いっぱいでもついついオーダーしちゃうくらいクセになるおいしさ。
ピリリと辛い特性ダレに漬けた青唐と、白飯の相性の良さったら。おにぎりにして持ち帰りたくなるくらいです。
オープン当時から通っていますが、今回初めて気づいたのは、カウンターのメキシカンなタイル。聞けば、ここは以前、タコスバーだったそうで。改装は焼肉のために取り付けた太いダクトくらいで、ほぼそのまま陽気な店内を利用してしまったのだそう。けれども、今までまったくそこに気づかなかったのは、やはり大将のキャラの濃さと、タイルのインパクトを感じさせない、お店の壁ほぼ一面に貼られたメニューに手書きされた大将の心の声。
「感じてほしい ロース 脂の旨み」「最速提供! 韓国ノリ お子様大好き」「横隔膜 ハラミ タレに合う!」
大将曰く、魂の叫びだそうです。
この楽しいメニュー札を眺めながら、大将の愛あふれるお仕事ぶりも感じつつ、最後の〆にまたビールをおかわり。
この歳になってもおいしくお肉&ビールを堪能させてくれるここが鎌倉にあることに感謝!
味わい深い店内の感じといい、いい意味で、ラフで雑然としている店内の雰囲気といい、いかにもアラモアナの裏手、ケアモク辺りにありそうな焼肉屋さんだなということで、やっぱりなんとなくハワイ。こういう味わいはなかなか出そうと思ってもそう簡単には出せないもの。それを知ってか知らぬか、自然に生まれたこの味わい深すぎる店内で、大将は今日も、地元民においしいお肉を食べさせたいと、昭和歌謡を聞きながら仕込みに励んでいると思います。
丸牛
所在地 神奈川県鎌倉市長谷2-16-15 サイトウビル102
電話番号 0467-61-1929
営業時間 12:00〜15:00、17:30〜22:00
定休日 月・火曜
※予約がおすすめ。
赤澤かおり(あかざわ・かおり)
料理雑誌の編集部を経て、フリーランスに。料理と旅の編集者として活動。料理本のほか、30年以上通い詰めるハワイについての執筆、単行本編纂も多数。近著に「人生にはいつも料理本があった」(筑摩書房刊)。
Instagram @kaoriakazawa.akalohasunny
Column
赤澤かおりの鎌倉ひとり飲み
鎌倉で暮らしながら、料理編集者として飛び回る毎日を送る、赤澤かおりさん。どんなに忙しくても赤澤さんが元気いっぱいなのは、地元・鎌倉でお酒を飲む時間。このシリーズでは女性のひとり旅も多い鎌倉で、「ひとり飲み」に優しいお店をご紹介します!
2024.07.17(水)
文=赤澤かおり
写真=榎本麻美