この記事の連載

 鎌倉でダンナさんと暮らしながら、ハワイや沖縄、もちろん東京でも料理の本を作ったり、取材をしたり。料理と旅の編集者・赤澤かおりさんは、どんなに忙しくても元気いっぱいなのです。

 そんな赤澤さんが忙しい毎日のなかでほっとするのはやっぱり、地元・鎌倉に戻って、あるいはおうちで目一杯働いたあとに、お酒を飲む時間。基本的に前々から予約をとるよりも、その日のお腹に聞いて食べたいものと飲みたいものを求めて出かけます。

 今回のシリーズは、「春の素材を食べるなら?」をお題に、ワインや日本酒を片手に楽しむお店へご案内。鎌倉の旬を意識したら、赤澤さん曰く「鎌倉イケおじのいる店」3選が裏テーマに!? 確かに、カウンターひとり飲みとイケおじは好相性!

 今回は、駅近で地元の人たちがほっと憇う、日本酒の酒場へ。


酒好きにたまらない見ごたえのある黒板メニュー

 2軒目は鎌倉駅西口の目の前! 細~い階段をのぼった一番上、3階にある和食屋さん。今年でこちらも17周年目。私も長いことお世話になっております。

飲みすぎやりすぎを戒める、「酒は三献に限る」という言葉がありますが、ここでは自分たちのペースでのんびりやりたいという想いが込められた店名。夫婦二人で切り盛りするゆるやかな空気感にしっくりきます。ちなみにお店の読み方は「さこん」です。サンコンではないのでお間違えないように。

 絵を描いたり、器をつくったりするのが趣味というご主人の石松邦雄さんは、キャンドルを使ったイベント会社で働いていたという経験をお持ちで、そのときのアーティスティックな経験が今も料理そのものに、盛り付けにとちらほら見え隠れするイケおじです。

 料理に合わせた日本酒をおすすめしてくれるのは、共に切り盛りしている奥様のたみさん。1杯目から次のものまで私はいつも彼女にお任せして飲むのが好きで、料理に合わせてくれるのはもちろん、偶然かもしれませんが、彼女の流れで飲むと変な酔い方にならないのです。それも含めてすごく信頼しております。

 だから、いつもはワイン派の私ですが、やっぱり日本人ですからね〜、日本酒が飲みたいなぁと思うときがあるんです。春はタケノコに、ホタルイカ、山菜など芽吹く季節にぴったりのおいしいもの揃い。それを日本酒でちびりちびりやりたいときにはここへ。で、ちびりちびりとは真逆に、毎度、ついおいしくてもりもり食べ過ぎてしまうんですけどね。

 私の定番お気に入りつまみは、チーズ豆腐と酒盗。季節の刺身はおまかせして盛り合わせてもらいます。先日、初めてなまこをいただきましたが、苦手と思っていたのがウソのよう。大好きになりました。こういうものって下処理とか味付けによると思うんです。今までのはなんだったんだろうと思う、フレッシュさ。またすぐ食べたいなぁ。

 春のおすすめは、たたいたホタルイカにふきみそをまとわせた夢のコラボ、ホタルイカとふきみそのなめろう。まさにちびりちびりやるには欠かせないひと皿。永遠に飲み続けられそうで怖いくらいでした。それにしても丸ごとホタルイカはよくありますが、たたいたホタルイカって新鮮! より味わい深くなる感じでこれはもう日本酒でしょー! という流れに最初からぐいっともっていかれます。

 お次はたけのこの木の芽みそあえ。これはもういうまでもなく、ドンピシャりな組み合わせ。かみしめるたびに広がる木の芽みそをまとったたけのこのおいしさに、何度もうーんと唸り続けてしまいました。

 他にもカキフライや、ふきのとうの天ぷらなど春メニュー、そして通年の鶏の天ぷらなど、食べ逃したくないものだらけでしたが、胃袋と相談し、ここへきたら欠かすことのできない半田麺で締めくくり。締めたくなくても、締めたくなるのがここの半田麺。今回は、鎌倉の市場に出回りはじめたというトマトを丸ごと煮びたしにしたものがどんとのった麺を。このトマトをくずしながらやさしい味わいのおだしと合わせ全部飲み干すと、あら不思議、また一から飲み始めたくなる感じ!? で困った、困った。

2024.04.20(土)
文=赤澤かおり
撮影=榎本麻美