●不憫な婚約者キャル氏に同情
全長270メートルという凄まじく大きなタイタニック号の中で、泊まる部屋も階級も全然違うのに、出会ってしまったジャックとローズ。まさに運命。しかも2人はお似合いなのだが、それにしても不憫なのが、ローズの婚約者、キャルドン・ホックリー氏である。
確かに金持ち君でウザいが、ローズには「心を開いてくれ」と必死でゴキゲンを取るなど、けなげなところもある。大好きな北村一輝さんに似ているので、ついつい肩入れしてしまうのもあるかもしれないが、どう考えてもローズの態度が失礼すぎる。他の男とイチャイチャされて、プライドがズタズタではないか。彼があんな意地悪フルスロットルになったのは、ローズにも責任があるのではないかと私は思っている。
●本当にジャックは助けられたのか?
とかブツクサ言っている間に後半に突入。タイタニック号が氷山にぶつかり異変が起こってからどうなるか、結果は分かっているのに、こちらまでオロオロしてしまう。私は公開時映画館で見たのだが、船酔いした。それほど大迫力である。
そうそう、楽団は最後まで演奏するのよね。船が真っ二つに割れるのよね。海に落ちる2人。大きめの板を見つけたジャックはそれにローズを乗せて、自分は水に浸かったまま死んでいくのである。ティッシュティッシュ(むせび泣)。
このシーンに関して「板はジャックも一緒に乗れるほど大きい。助けられたのでは」説が浮上したことがある。私はそれを読んだとき、思った。助けられる、助けられないの問題ではない。この流れが良きなのだ。ぶるぶる震えながら「ローズ、ちょっと横空けて。よいしょ……」と必死に板の上に上がるジャックは見たくない。いっそジャックが突然、死の恐怖に襲われ、ローズを張り倒して板から落とし、自分が乗るくらいの急展開があったらそりゃそれで見たいが、恋愛ドラマはやはりロマンチックの王道(自己犠牲)が萌える。
ジェームズ・キャメロン監督も私と同じ考え(?)だったようで、
「ストーリー上、ジャックは死ぬ必要があった」
と答えている。
それに、ジャックはちゃんとローズの中で生きている。この映画はなによりエンディングが素晴らしい。沈んでボロボロになったタイタニックが、徐々に美しさを取り戻し、ジャックとローズの恋を乗客みんなが祝福する、というもう一つの世界線で終わる。柱時計の前での、あのキスシーンの美しさよ。
スーツもいいけど、やっぱりレオナルド・ディカプリオはサスペンダーよね!
しかし、こんなビックリ裏話が。レオナルド・ディカプリオが実は水に濡れるのがすごく苦手だったそうで、監督は撮影の際、彼に海の中に入ってもらうことに、一番手間取ったという。
レオ様は映画のほぼ半分、水に浸かっている。よくぞこの役を引き受けたなと驚くばかりである。
実はレオナルド・ディカプリオの他に、ジョニー・デップ、クリスチャン・ベール、マシュー・マコノヒー、ブラッド・ピット、トム・クルーズなどが候補に挙がっていたそうだ。錚々たるメンバーではないか!
しかしジョニー・デップは沈んだ船を海賊船にしそうだし、クリスチャン・ベールだったらサスペンス度のほうが高まったろうし、トム・クルーズなんて、乗客全員救い出して生き残りそうである。マシュー・マコノヒーは、どっちかというとライバルっぽい。ブラッド・ピットはローズ役のケイト・ウィンスレッドとの並びが、色気があり過ぎて生々しい。ということで、やはりジャック役はレオ様。彼で大正解だったのである。
2024.04.25(木)
文=田中 稲