誰かトムを止めて!

 夏休み、またこの男が世界中を心配させる――。そう、御年61歳(7月3日、ハッピーバースデー!)にして、スタントなしでなんでもする男、トム・クルーズ! 暑い時期に最高に熱い映画がくる。映画館が燃えそうだ。7月21日に公開される最新作『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE』は、予告を見るだけでもう大騒ぎである。

 ドアが取れた車でカーチェイスをするトム!  走る列車の上で戦うトム! バイクのまま崖から飛び降りるトームッ!!

クリストファー・マッカリー監督が語る。

「無駄なシーンは一つもない」

トム・クルーズも語る。

「これも全て、観客にスリルを届けるためだ」

 正直、これらのアクションのうちのどれか一つくらいなくてもじゅうぶんスリルは届くのだが、トムの心意気だもの。イエッサー、全部受け止める!

 そもそも、ハンサムの代名詞のような人である。目と眉の間隔は黄金比。演技力も確かで、『レインマン』や『ザ・エージェント』、『ア・フュー・グッドメン』などを拝見しても、じゅうぶん「静」の方向で通じる方である。

 正直、こんなに飛んだり跳ねたりせずともよいのではないか。誰かトムを止めて! 『ミッション:インポッシブル』シリーズで、回を追うごとに、より危険な命の限界に突き進む彼を観てそう思っていたが、昨年『トップガン・マーヴェリック』を観て、考えを改めた。私にも「荒ぶるトム」ブームがやってきたのである。戦闘機に乗り、Gで顔をゆがめながらもイキイキとスクリーンを飛び回る彼に、若きエナジーとはまた違う、一念岩をも通す的な、心から出てくるパワーを見せつけられた。

 「俺がやらねば誰がやる」。この人は死ぬまでそんな風に映画を愛し、周りを巻き込んでサプライズを起こしていくのだろうなあと思った。

2023.07.20(木)
文=田中 稲