トム・クルーズのチャレンジを支える人の悲鳴

 とはいえ、裏で支えている人のプレッシャーたるや。ケガどころではなく「下手したら死ぬ」レベルの挑戦を大スターが自ら提案してくるのだ。たまったもんではないだろう。新作にも、トムの俳優人生で最も危険なスタントがあるらしい。彼が「俺、このアクションをスタントなしでやってみる」と宣言した瞬間の、準備スタッフや共演者の「勘弁してくれよ……」と天を仰ぐ様子が思い浮かんだ。

 実際、2018年に公開された『ミッション:インポッシブル/フォールアウト』の撮影で、トムはビルの屋上からジャンプしたが飛距離が足りず、壁に激突(いたたたた)。全治9か月の骨折をしている。しかも、完治しないまま6週間で撮影に復帰……。観る側としては「やだ不死身っぽくてカッコいい……」と思うが、現場の人間は「トムマジで休んで」状態だったはず。

 しかし、彼はきっと止められれば止めるほどやりたくなる人である。「無茶ですよ!」と言われたら「無茶か……じゃあやろう(ニヤリ)」と張り切る気がする。実際、共演者のサイモン・ペッグは、「いつかトムを失うのではという不安が常にある」としながらも、スタントを反対したことはないらしい。「彼は映画のことを第一に考えているから、それは言ってはいけないんです」と回答。もはや触れてはいけない案件なのだ。

 トムよ、カッコいいがなんと面倒くさい!

 周りの心配を知ってか知らずか、最新作『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE』では、崖からバイクごと落ちるシーンのため、スカイダイブを500回、モトクロスジャンプを1万3000回するという入念なトレーニングを行ったそうだ。トレーニング自体がもう危険そうである。さらには、大空に高く高ーく飛んでいる飛行機の上に立ち、映画を告知!

 どれだけ飛ぶのか、トム……。もはや『ミッション:インポッシブル』シリーズは、イーサン・ハントの物語であると同時に、レベルを上げていくトム・クルーズのチャレンジを記録に残す使命を帯びている気さえする。彼の引き出す「CGを超える、人間の肉体の可能性」を見届けるのが私たち観客のミッションなのだ。

2023.07.20(木)
文=田中 稲