会場は完全にアウェイだった…

 アウェイの場でのライヴというのはこれまで何度もあったが、そういう場での立ち振る舞い方は心得ていたはずだ。心を強く持てばいい。パンクバンドに囲まれながらも弾き語りで乗り込んだ夜もあった。いい夜だった。しかしどうだ、バックヤードでは懐かしい再会を喜び、ホームグラウンドのように温かく送り出され、いざステージに向かってみると、その客席は全くのアウェイ、というのは果たして今まであっただろうか。ステージにあがり、学生からの「誰だこいつ……」という視線をめちゃくちゃ感じつつも、何曲か歌っていく。ホールの響きが懐かしく思える。体は覚えているものだ。終盤、「ODDTAXI」を歌うために、アニメ「オッドタクシー」の名前を出した時に明らかに客席が動揺しているのも感じて「オッドタクシー」の作品の強さを改めて感じた。

 この日のセットリストは大いに悩んだ。「CALL」「ストーリー」「ODDTAXI」「静かな夜がいい」といった具合に落ち着いたのだが、自分のキャリアの中からなるべく強い曲を選曲した形になった。そんな中、急遽17歳の頃に作った「愛情」という曲を忍ばせた。19年も前に書いた曲を歌うなんて正気じゃない気もする。しかし当時の私は、あらゆる音楽を通した紆余曲折を経て、刹那的に歌う若者が持つべきロック的なものに辟易していた。「その瞬間を歌い、その瞬間にあるだけではダメなんだ。10年経っても、20年経っても残るかもしれない曲を作らなければならない!」と奮起したのが、今の活動の根幹となっている。無理に忍ばせた曲ではあったけど、実際に歌ってみると、19年経ってそういう曲になれているのかもしれない、とようやく実感することができた。その曲は「冬には友達もちょっと増えて 静かに暮らす夢を見る」という詩で始まる、1分半にも満たないショート・ポップ。過去、ライヴではよくやっていた曲で、2011年の『ストーリー』にも収録したお気に入りだ。「愛情」という曲には、ある雨の日、国際興業バスで成増まで出て、有楽町線に乗り換え、学校があった要町まで向かうあの情景が息づいている。

澤部 渡(さわべ・わたる)

2006年にスカート名義での音楽活動を始め、10年に自主制作による1stアルバム『エス・オー・エス』をリリースして活動を本格化。16年にカクバリズムからアルバム『CALL』をリリースし話題に。17年にはメジャー1stアルバム『20/20』をポニーキャニオンから発表した。スカート名義での活動のほか、川本真琴、スピッツ、yes, mama ok?、ムーンライダーズのライブやレコーディングにも参加。また、藤井隆、Kaede(Negicco)、三浦透子、adieu(上白石萌歌)らへの楽曲提供や劇伴制作にも携わっている。2022年11月30日に新しいアルバム『SONGS』をリリースした。
https://skirtskirtskirt.com/

Column

スカート澤部渡のカルチャーエッセイ アンダーカレントを訪ねて

シンガーソングライターであり、数々の楽曲提供やアニメ、映画などの劇伴にも携わっているポップバンド、スカートを主宰している澤部渡さん。ディープな音楽ファンであり、漫画、お笑いなど、さまざまなカルチャーを大きな愛で深掘りしている澤部さんのカルチャーエッセイが今回からスタートします。連載第1回は新譜『SONGS』にまつわる、現在と過去を行き来して「僕のセンチメンタル」を探すお話です。

2024.03.01(金)
文=澤部 渡
イラスト=トマトスープ