「もう恋なんてしない」「ズル休み」etc.……。親近感だらけの楽曲を思い出す

 ライブの話の前に少しだけ、槇原敬之楽曲について個人的なメモリーを語らせてほしい。私は彼の「恋にオロオロする曲」が好きだ。他人とは思えない不器用さに、何度歌詞カードを撫でたことか。

 「もう恋なんてしない」は「もう恋なんてしないなんて 言わないよ絶対」とか言いながら、また絶対言う気がする。「ズル休み」「SPY」「モンタージュ」のグジグジ感、わかりみが強すぎて胸が痛いわ! 「夜空にピース」は、「人にやさしくできる心の余裕が欲しい。けど難しいんだよ……」という私のボヤキがそのまま歌になったかと思った。

 しかもとんでもなく滑舌が良い。もし私に「日本のアーティスト滑舌王者決定戦」の審査員をする機会が巡ってきたなら、彼とポルノグラフィティの岡野昭仁とどちらを一位に選ぶか悩むだろう。

 小さな音量でも語尾までしっかり聞き取れるので、言葉が思い出やセンチメンタルを一緒に乗せて、体中をグルグル循環するのである。ある意味デンジャラース!

2022.07.22(金)
文=田中 稲