「足」で歌うマッキーから目が離せない!

 さて、私はライブ当日に向けて心のストレッチを開始。新曲と懐かし曲を混ぜてイソイソとプレイリストを作り、繰り返し聴き、会場までの道のりをグーグル先生に毎日のように確認し。よし準備はOK!

 ライブ当日は楽しみ過ぎて緊張しないよう、姉が働くお寺にお伺いし、心を落ち着かせてから会場入りをした。

 再ブームの記念品として、ライブグッズは手に入れたい! 小走りにグッズ売り場に並ぶ。よーしよし、イラストがかわいいのでクリアファイルを買うぞ。そう思っていたのに前の人につられて

「タオルください」

 と言ってしまった自分に仰天した。

 さらには3階と4階を間違えて、先に着席してらっしゃったレディに「席をお間違えではありませんか」と言ってしまう大失態を犯してしまった。もう誰か私の空回りを止めてーッ!

 パニックになりながらも自分の席を見つけると、最後列。周りを見渡すと年齢層が広い広い! まさに「老若男女」という表現がぴったりで、ザッと見回しただけでも小さなお子様を連れた家族が数組、中年層のジェントルマン3人組、マダム5人組。私の隣の席はグレーヘアが素敵なシニアのカップルだった。みんなニッコニコだ。

 いざ幕が開き、マッキーが登場。

 「introduction ~東京の蕾~」がホールに響く。こっ、これはすごい……。声の粒子ちっちゃい! 澄んだ歌声に思わず前のめりになってしまった。近くの客席のどこかから「マッキー待ってた~」という小さな声が漏れ聞こえてくる。横のシニアカップルを見ると、我が子を見るように、うんうん、うんうん! と深く深く頷きながら聴いている。

 なんか私、今でっかい家族の中にいる気がします……。

 くっ、あれだけ用意しようと思っていた双眼鏡を忘れてしまった。近眼老眼の目を凝らして、小さな小さなマッキーを見る。

 残念ながら表情はぼやけて一切見えなかったが、印象的だったのが「足」。マッキーの白い靴がとにかくリズミカルにぴょんぴょん跳ねる。足も歌っている! 地面から彼しか分からない透明の鍵盤が出ていて、それを踏んで演奏しているかのよう。心地よいステップとともに約2時間半、懐かしい90年代のヒット曲から、最近のアルバム収録曲まで幅広いセットリストを響かせていた。

 そして待ちに待った「宜候」。ヨーソロー、ヨーソロー……とパワーを振り絞るような歌声と、揺れる観客の一体感。

 まさに美しい大海原! マッキーに手を振ったり、溢れ出る涙を拭ったり、クラップしたり。観客それぞれの手から美しいカラーテープが見えるようだった。

 序盤のMCで、彼は「緊張して眠れなかった」「胸を張って槇原のファンだと言えなくさせてしまって本当にごめんなさい」と語っていた。そしてライブの最後では、腕をいっぱい伸ばし、涙声で「ありがとう!」と何度も叫んでいた。

 私は初参戦だったが、ジーンときたりノリにノッたり大忙しであった。 

 こんなにいろんな世代の人をパアッと笑顔にする声と音楽を持っているなんて、すごくすごく羨ましい。この場を失うような旅なんてもうアカン。いやもうこれからも歌声を届けてくれんとアカン人やで!  

 帰り道、買ったばかりのタオルを揺らしながら思った。とんだ親戚のおばちゃん気取りである。

 あれから2か月が経ったのか……。WOWOWでは8月、9月と2カ月連続で槇原敬之特集が放送されるそうだ。

 ということで、改めて心のカラーテープをエイッ。よい旅を。ヨーソロー!!

田中 稲(たなか いね)

大阪の編集プロダクション・オフィステイクオーに所属し『刑事ドラマ・ミステリーがよくわかる警察入門』(実業之日本社)など多数に執筆参加。個人では昭和歌謡、ドラマ、都市伝説、世代研究、紅白歌合戦を中心に執筆する日々。著書に『昭和歌謡出る単1008語』(誠文堂新光社)など。
●田中稲twitter https://twitter.com/ine_tanaka

Column

田中稲の勝手に再ブーム

80~90年代というエンタメの黄金時代、ピカピカに輝いていた、あの人、あのドラマ、あのマンガ。これらを青春の思い出で終わらせていませんか? いえいえ、実はまだそのブームは「夢の途中」! 時の流れを味方につけ、新しい魅力を備えた熟成エンタを勝手にロックオンし、紹介します。

2022.07.22(金)
文=田中 稲