12月は時間の経ち方が恐ろしいほど早い。右を向いて左を向いたらもう年末!
年賀状用に寅のイラストを描いていると、ラジオからB'zの「いつかのメリークリスマス」が流れてきた。そうそう、寅の前にクリスマスなのよ。黄色と黒のシマシマより、まずは赤と白のシマシマなのよ! 曲を聴いて手が止まる。
「いつかのメリークリスマス」は2人の仲が絶好調の頃のクリスマスを思い出す歌詞が、本当に切ない……。
大好きな彼女のプレゼントに椅子をチョイス。アクセサリーではなく家具! しかもそれを配送ではなく、抱えながら電車に乗って自ら届けるあたり、ラブの強さが伝わってくるではないか。
彼女の喜ぶ顔などまで細かく思い出すわりには、2年前とか3年前とかではなく「いつかの」とぼんやりボカすあたりがまたエモい! 戻らぬ幸せに遠く視線を飛ばす男が見えるようだ。B'zの楽曲はこういう言葉のチョイスが本当にうまい。クーッ!
“きっと君は来ない” 名曲「クリスマス・イブ」も弱気
この2人は友達として新たな関係を築くということが、ミニアルバム「FRIENDS」の曲の流れで示唆されている。しかし、「いつメリ」の彼は、新しい恋ができるのだろうか。新しい恋をしても、この彼女が殿堂入りし、今カノと比べてしまう気がする。危険!
そういえば、同じくクリスマスソングのスタンダード、山下達郎の「クリスマス・イブ」も失恋曲である。そして弱気だ。
「きっと君はこない ひとりきりのクリスマス・イブ」
この曲がクリスマスソングのスタンダードとなるきっかけになった『クリスマスエクスプレス』CMでは、牧瀬里穂さんも深津絵里さんも間に合っていた。だから長年、歌の中でも私は「向こうから見える 君の姿が」的なオチがあるのだと思いこんでいた。
ところが今回、改めて歌を最後まで聴くと「君」はどうも来そうにない。
そもそも「きっと君は来ない」「叶えられそうもない」と弱気がダダ漏れ過ぎる。この時点で恋の戦いに負けている気がする。歌の主人公よ、アンタも失恋木っ端みじん族なのね……。
この「きっと」を逆手に取り、ハッピーエンドに仕立てたJR東海のCMは素晴らしい。
歌の世界は聴き手の想像力によって、未来の選択肢が増えるのだ。
この2曲に限らず、大御所男性アーティストのクリスマスソングには、励ましたくなるようなロンリーな楽曲が多い。ざっと挙げてみよう。
2021.12.23(木)
文=田中 稲