クリスマスソングは、切ないくらいがちょうどいい

■KAN「KANのChristmas Song」(作詞・作曲:KAN)

 アカペラがとても心地よいホーリーな名曲。楽しみ過ぎて、待ち合わせより早く着いた男性のワクワクが伝わるようだ。

 ただ、「君にもう一度会えるのならば」の「もう一度」の部分に、弱気かつ約束の不確定さを感じる。「手応えの悪い彼女に必死で申し込み、どうにかこうにか待ち合わせまで持ち込んだKAN」を想像してしまう。応援したい。しかし彼女の遅刻の多さは今後のためにもハッキリ怒ったほうがいい。

  なんというか全員、背中をさすりたくなる不器用さ!

 もしかして私が知らないだけで、男がオラオラ状態のクリスマスソングも存在するのだろうか。「クリスマスに告白された 3人同時に! 予想通りだジングルベル!」的なモテ男の自慢ソングとか。

 いや、あったらあったで腹が立つだけだろう。やはりクリスマスソングは、切ないくらいがちょうどいい。

 「いつかのメリークリスマス」は、12月8日にリリースされたコンセプト・アルバム「FRIENDSIII」に、新たにレコーディングした音源が収録されているとのこと。こちらを聴き、素晴らしい恋をした「いつかの」クリスマスを思い出し、聴いて泣くのもいいだろう。

穏やかにクリスマスソングが聴けますように

 書いていてわかった。大御所の男性アーティストにロンリー曲が多い、というより、私が大御所の男性アーティストによるロンリーな曲が好き、というだけのようである。

 調べてみたら、両想いのクリスマスソングもワンサカと出てきた。

 槇原敬之の「冬がはじまるよ」、Kinki Kidsの「シンデレラ・クリスマス」は、聴いているだけで耳が照れるほどの幸せモード。生クリームのように甘い!

 クレイジーケンバンド「クリスマスなんて大嫌い!! なんちゃって♡」もキュートだ。歌の主人公は一応、レストランを予約してはいるが、クリスマス連敗記録を更新しまくって気が弱っている。そのせいか、恋の成就だけでなく「世界平和」という壮大な心の保険までかけ、神様に祈るのだ。でも、その先に見えるのは幸せの予感。「クリスマスなんて大嫌い」が「大好き」になる日が見えるぞ!

 切ないクリスマスソングの間に、こういったハッピーソングを挟めば、最高においしい歌のサンドイッチの出来上がりだ。ぜひプレイリストに組み込んで、チキンやクリスマスケーキと共に味わってほしい。

 浮かれるもよし、過去の恋に浸るもよし。歌は両腕を広げて心を受け入れてくれる。

 一年間本当にありがとう。そして来年はもっと幸せな世の中に。頼むよジーザス!

田中 稲(たなか いね)

大阪の編集プロダクション・オフィステイクオーに所属し『刑事ドラマ・ミステリーがよくわかる警察入門』(実業之日本社)など多数に執筆参加。個人では昭和歌謡・ドラマ、都市伝説、世代研究、紅白歌合戦を中心に執筆する日々。著書に『昭和歌謡出る単1008語』(誠文堂新光社)など。
●田中稲note https://note.com/ine_tanaka/

Column

田中稲の勝手に再ブーム

80~90年代というエンタメの黄金時代、ピカピカに輝いていた、あの人、あのドラマ、あのマンガ。これらを青春の思い出で終わらせていませんか? いえいえ、実はまだそのブームは「夢の途中」! 時の流れを味方につけ、新しい魅力を備えた熟成エンタを勝手にロックオンし、紹介します。

2021.12.23(木)
文=田中 稲