衝動とか好奇心にはブレーキをかけたくない

 ものづくりを「諦め」と表現するのはおもしろいけれど、絵を描くことも、歌を歌うことも、映画を撮ることも、すべてのんさん自身が決断し、切り拓いてきた道。

 「人と比べて、欲求にあらがう忍耐力がなかったんだと思います」

 これまでの道のりを、振り返ったのんさんは、またもおもしろい言葉をチョイスした。自分のものづくりへの欲深さを受け入れ、開き直った彼女の背筋はピンッと伸びていて、清々しいほどに美しい。

 「もしも時間に余裕がないなら諦めて寝てしまえばいいのに、私は夜更かしをしてでもものづくりをしたくなっちゃう。でもそのやり方は性分に合っているし、自由に選択して決断できている今の自分は、すごく好きです。

 これからも衝動とか好奇心にはブレーキをかけたくない。映画づくりだって、この1回で終わるつもりはありません。見てくれる人にどう届くかまで責任をもっていたいし、つくることを貫き通していきたいです」

Their Seeds

ものをつくりたいという欲求にブレーキをかけたくない。
大変だけど、そのやり方が性分に合ってるし、好きな自分でいられる

のん

1993年7月13日生まれ、兵庫県出身。2022年6月30日からは舞台「私の恋人beyond」(本多劇場)に出演。

映画「Ribbon」

コロナ禍の2020年。いつか(のん)が通う美術大学では、卒業制作展が中止になってしまう。悲しむ間もなく作品を持ち帰ることになった彼女は、心配してくれる父や母とも衝突し……。未来を奪われた美大生の再生の物語。テアトル新宿ほか全国公開中。

あたらしい暮らし
楽しい暮らし

2022.04.28(木)
Text=Kozue Matsuyama
Photographs=Satoru Tada
Styling=Izumi Machino
Hair & make-up=Shie Kanno

CREA 2022年春号
※この記事のデータは雑誌発売時のものであり、現在では異なる場合があります。

この記事の掲載号

あたらしい暮らし 楽しい暮らし

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あたらしい暮らし 楽しい暮らし

特別定価880円

「CREA」2022年春号の特集は、「あたらしい暮らし 楽しい暮らし」。激動する時代の中“楽しい暮らしの正解”はなくて、きっとそれは百人百様。でも人生100年時代となり、キャリアがマルチステージ化していくと言われる世界を、自分らしく楽しむためには、自分の中に「種」を持っていたい。今すぐじゃなくても、ちょっと先の未来に芽が出るような、小さくても、強い種を――。