静かな日常を繊細に描く、その点は妥協しないと決めていました
その言葉通り、家族との何気ないやりとりのリアリティは見事。心の機微を丁寧にすくい上げるのんさんのセンスが随所に光っている。
「俳優としてお芝居をしているので、日々、人の反応は注意して見ている気がしますね。劇中で描かれるヒロインのお母さんは、私のお母さんと似ています。娘からすると気兼ねない存在ではあるけれど、何をするか分からないから気が抜けない、みたいな。身近だからこそ苛立ったり、警戒したりする様子を表現できたら面白いだろうなと思いました」
さらにこだわったのは、岩井俊二監督作から大きな影響を受けたという繊細な映像表現。
「岩井監督の作品が好きなのは、静けさの中に主人公の痛みや切なさや物悲しさが漂っているところ。映像のトーンやムードを参考にしました。
現場では、スタッフさんがレールを使ってダイナミックに映像を撮ってくれたシーンがあったんです。でも私は静かな日常を繊細に切り取ってほしくて、妥協せずに想いを伝えました。改めて、人に伝えるって難しいなと思いましたね。こだわりが強いので嫌がられていたかもしれません(笑)」
監督目線から見たのんは、信頼がおける役者だと思います(笑)
一方、出演者のお芝居にも細かく演出をつけたのかと思いきや、「そこは放し飼いでした」と笑う。
「私自身が俳優なので、どうしても演者びいきなところがあるんです。皆さんのお芝居を信じていたのでほとんど指示を出すことはありませんでした」
その信頼の眼差しは、俳優である自分に対しても等しく注がれている。「監督から見た俳優ののんさんはどう映る?」という、少々返答しづらいであろう質問を投げてみると、はにかみながら、でもやっぱり堂々と、こう答えた。
「自分はお芝居で魅せられるという過剰な自信があるんです。怒ったり泣いたりする暗いシーンのときも、希望に繋げる明るい魅力があるというか……。ちゃんと役が直面している壁や痛みを感じながらお芝居を構築していくので、監督目線から見たのんは、信頼がおける役者だなって思います(笑)!」
2022.04.28(木)
Text=Kozue Matsuyama
Photographs=Satoru Tada
Styling=Izumi Machino
Hair & make-up=Shie Kanno