トップアイドルとして一時代を築いた山下智久さんは、今、未来を穏やかに、だが燃えるような瞳で見つめていた。
俳優・アーティストとして活躍する彼は、ここ数年、国内だけでなく国外の作品にも精力的に出演し、自身に挑戦を課している。
WOWOWとHBO Maxの日米共同制作でおくる史上初の大作ドラマシリーズ『TOKYO VICE』にて、山下さんは、オーディションを受けアキラという役を射止めた。
『ヒート』、『マイアミ・バイス』シリーズの巨匠マイケル・マンが監督を務め、ハリウッド屈指のスタッフと、『ウエスト・サイド・ストーリー』のヒットが記憶に新しいアンセル・エルゴート、日本からは渡辺謙、伊藤英明、菊地凛子、笠松将など豪華なキャスト勢に山下さんは飛び込み、物語のスパイスとして輝く。
37歳。思わず目を奪われる華やかな色香は残しつつも、肩の力は抜いたリラックスムードを漂わせ、颯爽と取材部屋に入ってきた山下さん。彼の現在地、静かにたぎらす情熱をインタビューで聞いた。
俳優業は儚いけどロマンがあって虜になる
――『TOKYO VICE』のアキラ役は3年前にオーディションに参加し、つかんだと伺いました。経緯を教えてもらえますか?
自分としては「外国の作品にもいつか出たいな」と20代前半ぐらいから思っていたんです。それまでもいろいろなオーディションを受けていたんですけど、なかなか役をいただけていなくて。難しいのかなと思っていたときに、この作品にチャレンジしたら、本当にありがたいことに役を勝ち取ることができました。
大きい役ではないかもしれないけれど、自分の中ではすごく大きなことで、本当にうれしくて。「決まったよ」という電話をいただいた瞬間を、今でも鮮明に覚えています。「よし!」みたいな気持ちでした。
――記者会見では、伊藤英明さんがオーディションの際にマイケル・マン監督に緊張してしまい「いいパフォーマンスができなかった」とお話していました。山下さんとしては、オーディションの手ごたえはあったんでしょうか?
確かに緊張はしていましたけど、とにかく今の自分にできることを悔いのないようにやろう、と。アドレナリンはきっとすごく出まくっていたと思います。とにかく必死でしたね。
――国外の作品や、今回のような合作など、オーディションはまめに受けていたんですか?
はい、チャンスがあればなるべく受けるようにしていました。儚いなと思いながら……。(台詞を)覚えたり、演技の練習をしても、役を取れないときがあるので。ただ、その儚さも僕の中では大事なところだと思っているんです。そこにどれだけ情熱を持って挑めるかが、自分のエネルギー量ですよね。
「受かるかどうかわからないから、面倒くさいな」と思ったら、もう終わりだなと感じています。受かる確率のほうが圧倒的に少ないけど、そこに情熱を注いでいたい自分もいたりするんです。今回は本当に幸運にもたまたま役をいただけたので、これでまた僕のモチベーションも上がりましたし、引き続きチャレンジしていきたいです。
――これまでのキャリアと活躍を拝見していると、「山下智久がオーディションを受けるのか、さらには落ちるのか⁉」という衝撃さえありますが、山下さんの受け止め方は違いますね。たとえ役を取れなくても受け止めて進んでいくと言いますか、過程も大事にされている。
そうですね。受かるかは、きっと役にはまるか・はまらないかということだと今回の経験でより思えました。はまるときははまるし、監督のイメージに近いかどうかが一番大事だと思うので、やってみないとわからないことなのかなと。
(俳優業は)本当に先が見えないし、不安定な仕事だなと改めて思っていますけどね。でも、不安定なところから安定にもっていくのも、ロマンがあって僕は好きなんです。「安定するぞ!」みたいな気持ちもありますしね。
ただ、日本でドラマをやらせてもらうときも、やることは同じなんですよね。台詞を覚えて、準備をして。その日が終わったら、もう終わり。それは先ほども言ったように、めちゃくちゃ儚い仕事ではあるなと思います。だからこそ輝く瞬間もあるんじゃないかなと思って、奮い立たせてやっています。
――儚さにロマンも見出している、と。
儚いからこそ、光る瞬間があるのかなと思います。桜もそうで、一瞬しか咲かないからみんなが集まるし、儚さみたいなものにもしかしたら人は魅かれるのかもしれない。寂しいですけど、その儚さと一緒に生きていくことによって、いろいろな人が何かを感じてくれたら……。
でも、僕は本当は嫌いですよ、儚いの(笑)。できればずっと見ていたいし、ずっとその瞬間にいたいほうです。それだと魅力が生まれないのであれば、何事にも裏と表があって、朝と夜があるから豊かになっているし、成り立っているように感じています。
――そう感じ出したのは、いつからですか?
結構ずっと思っていたかもしれません。「こんなに頑張って台詞を覚えてやったけど、本番1回で終わりか……」みたいな。例えば、ひとつのシーンをやるのに、僕は台詞を入れるのに最低1週間くらいかけるんです。「ずっとやってきたけど、あ、今日で終わりなんだ」となるとすごく切ない気持ちにはなるんですよね。
「よし、良かった、いい演技できた!」と終われる人もいるだろうけど、僕は女々しいところがあるから…(笑)、あんなに頑張ったのにこれで終わりなんだって。あっけないけどやめられないのは、何かそこに中毒性があるんでしょうね。覚えている時間も好きなのかもしれないですね。
2022.04.23(土)
文=赤山恭子
写真=佐藤 亘
スタイリスト=宇佐美陽平(BE NATURAL)
ヘアメイク=北一騎