元祖「会いに行けるアイドル」からプリンスへ
――ルドルフを演じられた「エリザベート」はその後、2回再演されたほか、「ルドルフ ザ・ラスト・キス」でもタイトルロールを演じられています。ルドルフというキャラは井上さんにとって、どのような存在でしょうか?
最初にルドルフを演じたときに、多くの方に「ピッタリだ」と言ってもらえたんですが、彼は皇太子と生まれ、頭も良く、新しい考えを持っていても、それを生かせず、歪んでしまい、最終的に若い恋人と心中してしまった破天荒な人なんですよ。自分としては、どこがピッタリなんだろうと思っていましたね(笑)。でも、今考えると、初舞台で何も知らずに、ただ情熱だけで演じている自分と、死に向かって突っ走っているルドルフが、どこかで共通していたと思うんですよ。
――また、ルドルフという役柄上、「ミュージカル界のプリンス」と呼ばれ、出待ちのファンが作る道は「プリンスロード」と呼ばれるようになります。そのことについて、抵抗のようなものはありましたか?
十年以上経って、あれは何だったのかと僕も分析したんですが、それまでのミュージカルの主役なり、大きな役を演る方は基本的にもともと名前がある方、たとえば宝塚のトップスターの方だったり、劇団四季を退団された方が多かったと思うんですよ。つまり、僕みたいな素人がアンサンブルじゃなく、役から始まって階段を上がっていくようなフォーマットがほとんどなかった。
それに、当時の僕は公演が終わって楽屋を出たら、そのまま千代田線で亀有に帰るだけでしたから、その間に話しかけやすかったと思うんです。自分もミュージカル・ファンの一人だったので、握手やサインを求めるファン心理は理解できるし、全然イヤじゃないので、できるだけ対応させてもらいました。応援してくれる人の距離が近い分、熱も感じる。そういうアナログな触れ合いをしていただけなんですよ。つまり、僕は元祖「会いに行けるアイドル」だったんですよ(笑)。
井上芳雄(いのうえよしお)
1979年7月6日生まれ。福岡県出身。2000年、東京芸術大学音楽学部声楽科在学中に、ミュージカル「エリザベート」の皇太子ルドルフ役で鮮烈デビュー。以降、ミュージカルや舞台、初主演作『おのぼり物語』(10年)、『宇宙兄弟』(12年)などの映画にも出演。役者以外にも、ソロコンサートやディナーショー、ユニット「StarS」など、歌手としても活動。06年に第13回読売演劇大賞 杉村春子賞を受賞したほか、08年には第33回菊田一夫演劇賞を、13年には第20回読売演劇大賞優秀男優賞、第63回芸術選奨文部科学大臣新人賞を受賞。今後の予定として10~11月にこまつ座公演「イーハトーボの劇列車」が行われるほか、11月にコンサート「StarSありがとう公演~みんなで行こう武道館~」も控える。
ミュージカル『二都物語』
18世紀後半、フランス革命で揺れるパリで出会った、酒浸りの弁護士カートン(井上芳雄)、亡命貴族のダーニー(浦井健治)、イギリス人女性のルーシー(すみれ)。やがてダーニーとルーシーは結婚を誓う仲になるなか、密かにルーシーを愛していたカートンは身を引くことに……。
www.tohostage.com/nito
2013年7月18日(木)~8月26日(月)、帝国劇場にて上演。
くれい響 (くれい ひびき)
1971年東京都出身。映画評論家。幼少時代から映画館に通い、大学在学中にクイズ番組「カルトQ」(B級映画の回)で優勝。その後、バラエティ番組制作を経て、「映画秘宝」(洋泉社)編集部員からフリーに。映画誌・情報誌のほか、劇場プログラムなどにも寄稿。
Column
厳選「いい男」大図鑑
映画や舞台、ドラマ、CMなどで活躍する「いい男」たちに、映画評論家のくれい響さんが直撃インタビュー。デビューのきっかけから、最新作についてのエピソードまで、ぐっと迫ります。
2013.07.12(金)
text:Hibiki Kurei
photographs:Nanae Suzuki
hair&make-up:Tomio Kawabata
styling:Miho Yoshida