●役柄に合わせて変わるため伸ばしている髪とヒゲ

――最新出演作『くれなずめ』は、松居大悟監督が過去に上演した戯曲の映画化です。

 2012年に観た舞台「リリオム」で、松居さんにスゴく鋭利なものを感じていたんです。そこから作品を追うようになっていたんですが、『あの頃。』の撮影中にオファーをいただき、「僕で良ければ」と受けさせてもらいました。

 今回演じた明石の髪型やヒゲといったフォルムに関しては、監督とスタイリストさんにお任せでした。僕は普段から、髪の毛とヒゲを伸ばしているんですが、これは役柄に合わせて、どちらにも振れるようにです。ま、言わば小道具ですね。

――明石のキャラに関しては、どのように演じられていますか

 キャラクター化すればするほど、万人受けするのは分かっているだけに、そういう安易なことはやりたくない気持ちは常にあります。この映画に限らず、できるだけ人間の多面性を持ち込みたい、と思っています。

●辛いことがあったら逃げ込めるような存在に

――『くれなずめ』はご自身にとって、どんな一本になりましたか?

 これまでも、「この映画に出たことで自分が成長できた」ということは、ほぼないんです。そんな簡単に人間は成長できないと思うし、20年後、30年後に振り返ったときに、ようやく分かるような気がします。なので、今はその瞬間瞬間に真摯に向き合っています。

――『くれなずめ』は20年の緊急事態宣言の前日まで撮影されたとのことですが、この1年間、俳優として考えられたことは?

 やはり、コロナというものが自分の思想の中で大きく作用していて。今まで映画は生活に余裕がある中で観るもの、という意識があったんです。

 でも、世界的にこういう状態になったことで、余裕を作るために、映画を観てもらう。そのために映画は存在させなきゃいけない、辛いことがあったら、逃げ込めるような存在にしたい、という意識に変わりました。

――前回の取材の最後には、今後の展望として「いちばんの素人になること」「自分なりのカラーで戦うこと」を挙げられていました。2年経ってみて、いかがですか?

 「いちばんの素人でいる」「何者でもない自分でいる」というのは、将来の展望というよりは、役者をやっていくうえでの永遠のテーマのような気がするんです。自分が何者であるか分かった瞬間から、役者として面白くなくなるような気がしますから。

 それに僕は凡人で、羞恥心が強い人間なので、できるだけそれを現場に持ち込んで、粛々と戦っていきたいと思います。それが自分のカラーだと思うし、それでご飯を食べていけたら最高です。

若葉竜也(わかば・りゅうや)

1989年6月10日生まれ。東京都出身。幼少から俳優として活動し、『葛城事件』(16年)では、第8回 TAMA映画賞・最優秀新進男優賞を受賞。20年のNHK朝ドラ「おちょやん」に出演するほか、近年は『愛がなんだ』(19年)、『あの頃。』(21年)、『街の上で』(21年)など、今泉力哉監督作に出演。

映画『くれなずめ』

吉尾(成田 凌)、欽一(高良健吾)、明石(若葉竜也)ら、高校時代に帰宅部でつるんでいた6人の仲間が、友人の結婚披露宴で余興をするため5年ぶりに集う。その後、二次会までの時間を持て余しながら、彼らは高校時代の思い出を振り返っていく。
https://kurenazume.com/
テアトル新宿ほかにて公開中
©2020「くれなずめ」製作委員会

Column

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2021.05.21(金)
文=くれい 響
写真=佐藤 亘