才能の塊。松居大悟監督を見ていると、そんな言葉が浮かんでくる。2008年、大学在学中に劇団ゴジゲンを結成。2009年にはテレビドラマの脚本家デビューを飾り、2012年には『アフロ田中』で映画監督デビュー。舞台・ドラマ・映画・MV・小説と幅広いフィールドで活躍し、学生時代には漫画も描けばお笑い養成所にも通っていたというから驚きだ。彼のバイタリティは、ひとつのメディアに収めることができない。

 そんな彼が、自身が作・演出・出演を務めた舞台を映画化した。『くれなずめ』(2021年4月29日公開)は、高校時代からつるんでいた仲間たちが、5年ぶりに再会したことから巻き起こる出来事を描いた物語。友人の結婚式に参加した面々だったが、そのうちの一人は亡くなっていて――。

 成田凌、若葉竜也、浜野謙太、藤原季節、目次立樹、高良健吾といった実力派たちが、現実と虚構の境目を飛び越えたエモーショナルな喜劇で、生き生きと輝いている。

 今回は、オリジナリティあふれる作品を作り上げた松居監督に単独インタビュー。映画制作の舞台裏から、影響を受けた作品群、コメディへの信念――。柔和な語り口に、譲れない想いが混じる表現者・松居監督の言葉に、じっくりと浸っていただきたい。


6人で過ごした時間があればあるほど、映画の中でその6人が“生きる”ことができる

――『くれなずめ』では、全体の撮影期間の3分の1をリハーサル期間に当てたと伺いました。この1週間、具体的にはどんなことをされたのでしょう?

 台本を持ってまず動いてみて、みんなの芝居の間合いや感覚、その人の役の雰囲気を知る機会にする、というものが基本ですが、今回に関しては、動くこと自体にはそんなに意味がないとも思っていました。

 それよりも、早めにリハーサルを終えてみんなで飲みに行って雑談するほうが大事というか、6人で過ごした時間があればあるほど、映画の中でその6人が“生きる”ことができる。ご飯の場でも、「このシーンについてはこうで」とかは全くしない。どうでもいいことに価値があるんです。それが映画につながっていくと思っていたし、そんな雰囲気を作りたくて。

 たとえば休憩中に「あと10分で再開ですよ」と言われたとして、リハーサル再開のタイミングが来ても雑談が続いていたら、中断せずにそのまま雑談タイムにするような形です。

――今回のメインキャスト6人のリハーサルの雰囲気は、どのような感じでしたか?

 (藤原)季節がうるさい(笑)。キャラクターとしても後輩キャラだから、役にも合っていましたね。季節がふざけて、そこに若葉(竜也)くんが茶々を入れて、ハマケン(浜野謙太)や成田(凌)くんが乗っかってきて、高良(健吾)くんや目次(立樹)がそれを見て笑っているのが基本構図でしたね。

――皆さんの関係性、『くれなずめ』にも通じますね。以前、今泉力哉監督との対談で「リハーサルで芝居への姿勢を見る」とおっしゃっていましたが(ピクトアップ129号)、今回は必要なかったということですよね?

 全く必要なかったです。魅力的な役者であることは、最初から分かっているので。

 そうした時間をすべてすっ飛ばして、『くれなずめ』のためだけに使えました。だからこそ、無意味な時間を過ごしたんです。

――素敵なエピソードですね。リハーサルだと、高良さんが“感じ”をつかむため、最初はすごく声を張っていたと伺いました。

 そうですね。そうしたトーンのすり合わせは行いました。俳優部にとっても、やりやすくなったんじゃないかな。高良くんも「これだけリハーサルをやっていたら、現場で全く不安がない」と言ってましたし。

 この期間に色々試せると、恥ずかしさなんかもなくなっていきますしね。後は現場で、その場の環境やカメラの状況に対応することに意味があると思います。

2021.04.15(木)
文=SYO
撮影=榎本麻美