“役者”として、全力でこの作品に向き合ってみたいと思った
大切な人に自由に会うことさえもままならない――。
コロナ禍で、世界中の人々が「本当に自分に必要なものは何か?」を見極めようとしている昨今、エンタテインメントが発信するメッセージには、ある種の“切実さ”が感じられるものが増えている。あるいは、それを受け取る側が、表向きは“娯楽”として発信されるものの中にも、“愛って何だろう?” “本当に人を愛するとはどういうことか”など、人間の根源的な部分に訴えかける何かを汲み取ろうとしてしまうのかもしれない。
2021年4月15日(木)から全世界同時配信されるNetflix映画『彼女』は、まさに、人を愛することによって生まれる極限の激情と崇高なまでの正気を描いた新時代のロードームービーである。
永澤レイ(水原希子)は、高校時代からずっと片想いしていた篠田七恵(さとうほなみ)が、夫から壮絶なDVを受けていると知り、七恵を救うためにその夫を殺害する。映画だからこそ描くことのできる“愛と性と暴力”が、美しく残酷に、ふんだんに盛り込まれた快作だ。
昨年の夏、緊急事態宣言が解除されてから2カ月後にクランクインした水原さんは、その2カ月間で、この映画のために車の免許を取ったという。
(全2回の1回目。後編へ続く)
「レイを私が演じられるのかな」って正直怯みました
――映画を観て、ものすごくヒリヒリしました。この役は希子さんしか演じられないだろうなと思うほど、レイの言動や佇まいすべてが、ピッタリハマっていた。ジェンダーやセクシャリティ、年齢とか民族とか時代とか、そういうものは関係なく、いつの時代、どの場所にいても、レイはひたすら愛に生きるんだろうなと思わせてくれた。この映画のオファーがあったのはいつだったんでしょう?
オファーをいただいたのは、コロナ禍になる直前でした。映画『あのこは貴族』はもう撮り終えていて、0号試写を観たぐらいのタイミングです。
――レイの役柄や映画の内容はどんなふうに説明を受けたんですか?
最初に企画書と台本が送られてきて、私が演じるのがレイなのか七恵なのかも知らされないまま、とにかく「読んでみてください」と言われたんです。読み進めていくうちに、心臓がバクバクして、胸が苦しくなるような感覚に襲われました。
『ノルウェイの森』で俳優デビューしたのが19歳の時だったんですが、一応10年以上役者のお仕事をさせていただいた中で、これほどまでに終始、感情をむき出しにして、揺れ動く瞬間瞬間が続いていくような役は演じたことがなかった。
愛のためとはいえ人を殺すという犯罪を実行してしまうレイ。愛してくれた家族や恋人を裏切っても、初めて好きになった人を守るために、自分を犠牲にしても、愛を知らない七恵のために、「これが愛なんだよ」って証明する。すごいストーリーだなと思って。「レイを私が演じられるのかな」って正直怯みましたね(笑)。
2021.04.14(水)
文=菊地陽子
撮影=佐藤 亘
スタイリスト=小蔵昌子
ヘアメイク=白石りえ