映画や演劇というよりもコメディに対する評価の低さが悔しい

――本作はスタッフ・キャストに80・90年代生まれの方が多く、世代感が共通していたことも特徴的な現場だったかと思います。

 それこそプロデューサー、監督、カメラマンといった仕切る側の人たちの世代が近かったので、サムいことは「サムい」と言うし、信用しあっていました。共通言語があるからこそ、ある種「気を遣わない」チームではありましたね。

 たとえば昔好きだったアイドルの話なんかをしていても、ちょっとずつ違っているんだけど「あぁその時代ね」とか「お前はそっちの子か」みたいな話ができる。それは大きかったですね。

――そうした要素が、本作に同世代が特別な感情を抱く、惹かれる要素につながっているのかもしれませんね。

 同世代であるプロデューサーの和田大輔さんから「『くれなずめ』を映画にしましょう」と声をかけてもらったのが始まりでもあるので、同世代が共鳴してくれるものになったのかもしれませんね。

 僕、実は同世代の話ってあんまりやってこなかったんですよ。高校生かおじさんのどっちかばっかりだったから(笑)、同世代の仲間と映画を作ることができて嬉しいです。

――高校生が主人公の作品ですと、『男子高校生の日常』(13)では菅田将暉さんや野村周平さん、吉沢亮さん、仲野太賀さんといった面々と組んでいますね。その後も、若手注目株と数多くお仕事をされている印象です。

 「一緒にやった人がみんな売れていく……俺も連れて行ってくれ」と思っています(笑)。今回も、季節や若葉くんがもっともっと売れていくときに僕も連れて行ってほしい。嫉妬してますし「フィルモグラフィから外さないでくれよ」って言いたいですね(笑)。

――(笑)。松居監督ご自身は、ものづくりにおいて“自分たち世代”を意識されていますか?

 最近は同世代も増えてきましたが、一時期は自分より上の世代の映画監督が多くて、作られていく映画も自分たちやそれより下の世代に向いていない気はしていました。向いていたとしても、それは向いている“風”で、ちゃんと同じところに立っているものではないような気がして、それが結構寂しかったり悔しかったりしていたんです。

 自分はちょっとデビューが早かったから、できるだけ10代や20代の子が「自分たちの映画だ」と思って楽しめるものを作りたい、という思いはありました。

 たとえば、花火を見ることが楽しいんじゃなくて、花火の様子をSNSに上げて、それに「いいね」されるのが嬉しいとか、「満足」や「楽しい」の価値観が世代によってちょっとズレがあるじゃないですか。そうした感覚を、ちゃんと落とし込んだ作品が作りたいとは常々思っていますね。ちょっと前までは、映画の中でSNSを使うとちょっと侮られるところがあったんですが、「でもみんな使ってるでしょ」と思って意識的に取り入れていました。

 下の子たちが今後ものづくりをしていくわけですし、彼らが「映画って面白いな、芸術って楽しいな」と感じられるものを自分が作らねば、とは思っていました。そうした意味では、「世代」というよりも「自分」かもしれないですね。

 僕は1985年生まれですが、中学3年生のときに『バトル・ロワイアル』(00)がR15指定だったために、劇場で観られなかったんです。「なぜ中学生が殺し合う映画を中学生が観られないんだ?」と思っていました(笑)。

――僕も松居監督とほぼ同世代なので、非常によく分かります(笑)。世代間のギャップというところだと、『くれなずめ』で欽一(高良健吾)と明石(若葉竜也)が上世代の演劇人にバカにされるシーンも印象的でした。

 あれに近いことは、よく言われます(苦笑)。映画や演劇というよりもコメディに対する評価の低さが悔しいですね。かといって面白いコメディがあんまりないせいもあるのかもしれませんが、小さい声でボソボソ言えばいい映画になるのかよといった反発もあります。コメディって、お客さんを笑わせるすごい芸術なのに、識者がいいって思わないことが多い。

 1回、演劇で、コメディじゃない舞台をやったら滅茶苦茶褒められて、でもそれもちょっとつまらなくて(笑)。コメディの社会的な地位を上げたいなとは思っています。

――松居監督の作品は、日常とつながっている“笑い”が多いですが、国内だと珍しい現状はありますね。

 そうなんです。コスプレみたいな恰好をして、変顔すればOKみたいなものは……自分にはわからなくて。

――演劇や映画に限らず、コメディにおいて松居監督が大事にされているものを言語化するとしたら……?

 “ズレ”ですね。世間の常識と自分の常識がズレていて、でもそれが笑えて愛おしいというもののような気がします。チャールズ・チャップリンもまさにそうだと思いますし。

 元々、自分は三谷幸喜さんの「笑の大学」などにすごく影響を受けています。学生時代、三谷さんが自分の地元の福岡で公演した際に、母親が連れて行ってくれたんですよ。それがまぁ面白くて、その後ラーメンズに憧れて、三谷さんのドラマや映画も面白くて……といったところが原点なんです。

2021.04.15(木)
文=SYO
撮影=榎本麻美