成田くんはわかんないから面白くて、「何を考えているんだろう?」と目が離せない 

――いま学生時代のお話が出ましたが、どんな学生生活を過ごされましたか?「バレーボール部に所属していたが、球拾いだった」と伺いました。

 勉強も部活もうまくできなかったから、ダメそうなやつら6人でつるんで学校帰りにラーメン屋に行ったりAVショップに行ったり、誰かの家でゲームしていました(笑)。他の友人も、きっと他に居場所がなかったんじゃないかと思います。最下層でもなければトップでもない、むしろそのヒエラルキーの中にさえ入れてもらえない。『桐島、部活やめるってよ』で描かれなかった人間です(笑)。

 僕がいま、色々と活動をしているのは、居場所がなかったあの頃を取り返したいのかもしれないですね。思春期のあの時間を、なかったことにしたくないんです。

――松居監督の作品にある“青春”が、よくある「青春映画」と異なるのは、そういった部分かもしれないですね。

 描かれない人たちを描きたいし、そこにこそドラマがあると思うんです。クラスの王子様がどうこうっていうのは……描きすぎですから(笑)。

――映画史的な流れでいうと、ヒエラルキーの上を描きすぎたから今度は下を描かねばという時代に入っていきました。その中で、おっしゃる通りどちらにも属さない、カテゴライズされない若者を描く作品は少ないように思います。

 そうなんですよ、ただ、やっていると「これ、需要無いんじゃないか……みんなほしくないのかな」とも思ってしまうんですが(苦笑)。

――いえいえ、特に『くれなずめ』に関してはそういった“層”も、男女においても関係なく楽しめる作品かと思います。松居監督にとっても、原点回帰的な意味合いがあるかと思うのですがいかがでしょう?

 そうですね。僕がいつも作品作りのテーマにしているのが「まだ言語化されていない感情に連れて行けるようにしたい」という曖昧なものなのですが、この『くれなずめ』はそこにすごく合っているように思います。

 ただ、これがデビュー作だったら、絶対にこんなことはできなかったと感じています。ずっとやり続けていたから、成田くんが「松居監督とやりたい」と言ってくれて、他のキャストやスタッフが集まってくれた。「需要、ここにあったんだ!」と思えましたし、こんなに個人的な話にこれほどまでのチームが集まってくれて、すごく嬉しかったです。これでダメだったら無理だなと思えますね。

――なるほど、監督作品としては、極私的な作品なのですね。

 一番、お客さんに向けた意識が少ないですね。元々ある友だちを想って作った作品だから、広く全員に届くように面白くしよう! とはしていない。わかりやすくしようとか一言で説明できるようにしようとは、全く思っていなかった。この企画にOKを出してくれた製作委員会に感謝です。

――先ほど成田凌さんのお話が出ましたが、松居監督にとって、成田さんの俳優としての魅力は?

 ひと言で言うと、わかんないですよね。わかんないから面白くて、どういうアプローチでこの芝居をしているのかが本当にわからないから、「何を考えているんだろう?」と目が離せない。その感じが吉尾にすごく近いんですよね。

――本作のコメントムービーでも、本当に作品のことが好きなんだろうなということが伝わってきました。

 「学生時代に戻ったみたいで、仕事をした感覚がない。ただ、楽しくて面白かったからこそ不安でもあった。勝手に役者たちだけで楽しくなりすぎちゃって、白々しいものになっていないかと思ったけど、松居さんが『もう1回やろう』と締めてくれてよかった」とは言っていましたね。

2021.04.15(木)
文=SYO
撮影=榎本麻美