ちょっとカッコいい金田一耕助を好演

――今回、『さよならドビュッシー』の岬洋介役で、本格的に俳優デビューされたわけですが、個人的には正直「なぜ、今なのか?」という気持ちがあります。

『ニュー・シネマ・パラダイス』とか、アンソニー・ホプキンスのお芝居とか、お芝居も好きなので、演技のお仕事はもっと早くやりたかったんですけど、日本の映画業界が甘くなかったんだと思います(笑)。意外と、同じ表現、同じ芸術の名のもとにいても、音楽業界と映画業界は遠い世界にあるし、やりたいという気持ちはなかなか届かないことも分かりましたね。お客さんに見てもらうのに、無理なことはできないですから。その点、今回の岬洋介は上手くマッチしたと思いますね。

――とはいえ、将来を有望視されているピアニストでありながら名探偵、という設定ですよね?

 原作を読んだとき、僕は岬洋介がそんなに二枚目には思えず、飄々とした2.5枚目キャラだと思ったんですよ。それで、原作者の中山七里さんとお会いしたときに「岬はちょっとカッコ良い金田一耕助。特に石坂浩二さんのときの……」と言われたのでなるほどと思ったんです。岬洋介とは冷静で理屈っぽいところが似ているかもしれないですね。僕も、分析することとかが好きで、好きなことに関しては周りが見えなくなってしまいますから(笑)。

――撮影中は、ヒロイン役を演じる橋本愛さんのピアノ指導もされていたそうですが、俳優業との同時進行は大変ではなかったですか?

 俳優としてよりも、指導者という裏方としてのキャリアの方がありますから、やりやすかったですよ。僕が先生役で、橋本さんが生徒役というキャラを地でいってたわけですから、映画での2人のレッスンシーンは本当のレッスンそのままですよ。あのシーンではアドリブもありますね。

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2013.01.18(金)
text:Hibiki Kurei
photographs:Asami Enomoto