音楽映画に携わりたい想い
――それは、2年間のモスクワ留学ですよね?
モスクワでの寒くて辛い過酷な状況の中で、自分を見つめ直すことができました。ひとつは、ピアノが自分にとってかけがえのない存在であること。もうひとつは、自分の中にあるエネルギーを、表現としてアウトプットしたいという想いがあるということ。この二つがハッキリしたことで、日本に戻って、多くの人にピアノの良さを広めたいと思うようになれたんです。
――帰国後、映画『神童』での松山ケンイチさんや、ドラマ「のだめカンタービレ」での玉木宏さんのピアノ演奏シーンの吹き替えを担当されますが、このようなお仕事をされることについてどう思われていましたか?
僕、他人がやったことをそのままやりたくないし、タブーとされているものでも、気にせずに突き進んでいこう、といった、どちらかというとアウトローな考え方を持って帰国したんですよ。そう思うようになったのは、コンクール優勝が目標だったときに感じていた葛藤があったから。クラシックをやっていると、音楽の難しさを追求していくあまり、多くの人に伝えるポピュラリティーを忘れてしまうんです。それで、たとえばショパンの「別れの曲」のような有名な曲や簡単な曲をやることが恥に思われる業界に疑問を感じていた。だから、映画やTVのお仕事をするようになって、いろいろなものが見えると同時に、クラシックと映画やTVの橋渡しみたいな仕事を続けていきたいと思いました。
――つまり、清塚さん自身、以前から映画やTV業界に興味があったんですね?
もともと、映画や舞台が好きなんですよ。でも、ピアノを扱ったような音楽映画を見ていると、面白い作品はあるけれど、本格的に音楽家がアドバイザーとして関わった、プロが見ても嘘じゃないと言えるリアルな作品は少ないと思っていたんです。そんなときに『神童』の話があり、自分からも売り込んでいったんです。
2013.01.18(金)
text:Hibiki Kurei
photographs:Asami Enomoto