これまでにない状況から引き出してもらった表情

――そういう中村組と、ほかの現場とのいちばんの違いは?

 僕にとって、いちばん居心地がいい組であることは間違いないですね。組のなかには、監督のほかにも気心知れた人がたくさんいますし。いつもワイワイやっていますから、初めて中村組に来て一緒に共演した方は「この組はいつもこんなに楽しいの?」ってビックリされる方が多いです。別にふざけてるわけではないんですよ。中村監督が自分に厳しくて、妥協しない人だというのは、周りの人たちもみんな分かっているから、緊張もありますし。とにかく、適度な緊張感と、みんなが持ってるキャラクターの雰囲気がいい現場ですね。

――濱田さんが役者として、今回『ポテチ』の現場で得たものはありますか?

 野球場のラストシーンで、素敵な経験をさせてもらいました。あの場所に立って、大声を出していたら、今まで出したことのない表情になった。監督のOKをもらえたから正解だったんですけど、それまで僕が考えていた表情だったら、一生OKが出なかったと思うんですよね。確かに最終日の撮影だったから、どこかでセンチな気持ちがあったのかもしれないし、東京から来たスタッフよりもはるかに多い仙台のボランティア・スタッフの方々とか、カメラに映っていないところでもずっと頑張ってくれたエキストラさんとか、いろんなことが相まって、あの雰囲気になった。映画の先頭にクレジットしてもらっている人間が、こんな現場の雰囲気でブレちゃうようなことを言っちゃいけないかもしれないけど、監督がOK出してくれたわけだし、あの環境というか、みんなが120%僕を引っぱり上げてくれたことで、素敵な経験ができたと思います。

素敵な人になりたい、という目標

――以前、将来の目標は作らない、とお話しされていましたが、それは今も変わらないですか?

 僕、現場に行くのが楽しいんですよね。そのためには、自分に与えられたことをちゃんとやらなきゃいけないじゃないですか。その考えは9歳から変わっていないんですが、いい加減、自分の性格も分かってきて、気の小さい人間だから、目標とする人を作ったらその人の力を借りようとしちゃうと思うんですよ。簡単にいえば、どこかでマネをしてしまうと。でもそれはちょっと違うかなぁ、と思うわけですよ。

――個人的に素敵と思ったり、憧れている俳優さんもいらっしゃらないんですか?

 素敵だと思う俳優さんはたくさんいますよ。このお仕事をしていると、みんなからスゴいと言われる方にお会いする機会があったり、大好きな先輩とお会いすることができたり、僕がスゴいと思う同年代の人と会ったりすることがあるんですね。そういう人に共通しているのは、人間性もみんな素敵な方々なんですよね。でも、素敵な人になるというのは、どのお仕事にも必要なわけじゃないですか。そういうのは今までの経験で勉強させてもらったから、将来どうなるのか分からないにしても、役者でいるにしても、やっぱり素敵な人になりたいな、という目標はありますね。

濱田岳
1988年6月28日生。東京都出身。160cm・A型。98年、ドラマ「ひとりぼっちの君に」でデビューし、子役として活躍する。その後、2004年「3年B組金八先生(第7シリーズ)」の出演をきっかけに本格的に俳優の道を志す。07年、『アヒルと鴨のコインロッカー』では第22回 高崎映画祭最優秀主演男優賞を受賞。11年に放送された「ピースボート -Piece Vote-」では連続ドラマ初主演を務める。今年は『ロボジー』『宇宙兄弟』にも出演。中村義洋監督と5度目のタッグとなる主演作『みなさん、さようなら』の公開も控える。

『ポテチ』
宮城県仙台市。生年月日がまったく一緒の2人は、プロ野球の人気選手と空き巣という、まったく異なる人生を歩んでいた。ある日、空き巣を仕事とする今村(濱田岳)が恋人の若葉(木村文乃)と共に、地元のプロ野球選手の家に盗みに入る。そんななか、部屋にある女性から電話がかかってくる。
potechi-movie.jp
(C) 2007伊坂幸太郎/新潮社 (C)2012『ポテチ』製作委員会
宮城・仙台にて先行公開中!!  5月12日(土)より新宿ピカデリーほか全国ロードショー

Column

厳選「いい男」大図鑑

 映画や舞台、ドラマ、CMなどで活躍する「いい男」たちに、映画評論家のくれい響さんが直撃インタビュー。デビューのきっかけから、最新作についてのエピソードまで、ぐっと迫ります。

2012.05.12(土)
text:Hibiki Kurei
photographs:Mami Yamada
styling:Norihito Katsumi(Koa Hole inc.)
hair&make-up:Misato Ikeda