かつて、夏目漱石や宮沢賢治らが滞在して、名作を書き上げたというホテルでの珍騒動を描いたコメディー映画『ゴーストライターホテル』で、世界のナベアツやケンドーコバヤシなど、お笑い芸人が演じる文豪たちに出会う、作家志望の主人公・内海を演じた阿部力(あべ・つよし)。日本のみならず、アジア各国で活躍する彼のキャリアを振り返ってもらった。

何も知らないまま、映画デビュー

――9歳で日本に移住し、帰化された阿部さんですが、高校卒業後、北京に留学された理由を教えてください。

 高校時代に音楽に興味を持ち始めて、アニメ「スラムダンク」のエンディングテーマだった大黒摩季さんの「あなただけ見つめてる」だとか、Mr.Childrenさんの曲を聴いているうちに、将来的に音楽の仕事をやりたい、と漠然と思うようになりました。

 日本の高校を卒業して、北京に行って、最初の1年間は、中国語を勉強しようと北京電影学院で演技を学ぶ研修クラスに入学しました。演技どうこうというよりは語学研修的な意味が強かったですね。

――そして、00年に映画『トイレ、どこですか?』でデビューするわけですが、『メイド・イン・ホンコン』などで知られる香港のフルーツ・チャン監督とは、どのようにして知り合ったのでしょうか?

 学校では留学生寮に入っていたんですが、入学して2カ月ぐらい経った頃、香港の友達から「香港のある監督が北京に来るんだけど、会ってみない?」と、監督を紹介されたことがきっかけです。そうこうしているうちに撮影が始まってました(笑)。撮影といっても、(当時では珍しかった)デジタルカメラでの撮影でしたし、台本もなく、現場でその日のシチュエーションとセリフが書かれた紙を渡されるという感じだったので正直な話、当時は撮影をしているという感覚はあまりなかったです。

――それでは、俳優になりたいと意識した作品はなんでしょうか?

 デビュー作の撮影で、ニューヨークや韓国の釜山など、いろいろな場所を回ったんです。そのときに、いろんなところに行ける楽しさを感じて、面白い職業だなと。それで、役者という仕事を続けていきたいと思うようになりました。楽しい半面、大変だったことも多かったんですが(笑)。

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2012.03.11(日)
text:Hibiki Kurei
photos:Miki Fukano