吉行淳之介の小説を実写映画化した『星と月は天の穴』で主演を務めた綾野剛さん。荒井晴彦監督のオファーを受けて、脚本を読む前から「ぜひやりたい」と出演を快諾されたといいます。
綾野剛さんが惹かれる荒井作品の魅力について、語っていただきました。
とてつもない造詣の深さに、大きな魅力と学びを感じています
――本作のオファーを受けた決め手を教えてください。
『花腐し』（23年）でご一緒させていただいた荒井（晴彦）さんからお声をかけていただいたことが大きかったです。「ぜひ頑張らせていただきます」とオファーをお受けしました。
――まず脚本を読まれてからお決めになるわけではない？
状況によって異なります。脚本に感銘を受けてお受けする場合や、企画が魅力的だから参加することもありますし、監督や脚本家、関わる方々のお人柄に惹かれてというケースもあり、今回は「荒井晴彦監督」という理由が大きかったということです。
――荒井監督のどこに魅力を感じておられますか？
ひと言で申し上げるなら、作家性感度です。ここまで振り切った作品を撮れる日本の映画監督は、荒井さんが随一だと思います。
荒井さんの作品は、チャレンジという枠組みを超えたクリエイティビティだと感じていますし、内部からわきあがるものを率直に作品に投影される稀有な存在です。さらにそれを言語化して脚本に落とし込めてしまう。そんな、とてつもない造詣の深さに、大きな魅力と学びを感じています。
――では、荒井監督からオファーをいただいた時点で「断る」という選択肢はなかったのですね。
基本的に求めていただいたお話は可能な限りお受けするようにしています。
若い頃は、自分がやりたいかどうかということよりも、「役者・綾野剛」を必要としてくださる場があり、自分のスケジュールが適うのであれば、オファーをいただいた順番にお受けするようにしていました。
近年は、関わる作品により責任を持たなければいけない立場になり、求めていただいたものにお応えできるか、そして何よりも自分がオファーをいただいた作品に誠実に向き合える環境や準備期間が整えられるかどうかというところでお受けするようにしています。
――脚本を読まれて、いかがでしたか。
前回ご一緒した『花腐し』とは根本的なところが異なりました。
どちらの作品も、人間の抑圧された感情が描かれた世界を映し出していますが、『花腐し』は、より日常的です。それに対し、本作はより物語的だと感じたのです。
そして何より、また荒井さんの活字の渦を浴びる幸せをかみしめながら読み進めました。
――原作となった吉行淳之介さんの同名小説は、芸術選奨文部大臣賞を受賞。荒井監督が映画の仕事を始めてからずっと、「いつか映像化したい」と想い続けてきた作品だそうです。
はじめて伺いました。もしかしたら荒井さんは、そういう私的な感情は、あえて口にすることではないとご判断されて、おっしゃらなかったのかもしれません。
ただ、監督の想いはすべて脚本に表れていたので、主人公・矢添克二を通じて言葉の美しさと滑稽さ、文学の造詣に触れられ、とても幸せな時間を過ごさせていただきました。
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