ひとつの答えが得られたように思います

――今回綾野さんが演じた矢添克二は小説家で、自身が書く小説の主人公でもあります。言葉遣いや言い回しなどでは、どのようなことを意識されましたか。

 何よりも意識したのは、「台詞の拡声器として生きる」ということです。

 前作『花腐し』もそうでしたが、本作も監督ご自身が投影されていると感じるところも多かったので、目の前にいらっしゃる監督を見ながら、脚本の台詞を邪魔しないよう編むことに集中しました。

 アプローチで言うなら、「小説家」であることを軸に演じることもできたと思います。今回は小説家という職業ではなく、矢添克二という人物そのものをベースにしています。

 そういう視点であらためて振り返ってみると、前作の『花腐し』で演じた栩谷修一(くたにしゅういち)は、人物重視ではなく、「映画監督・栩谷修一」として描かれていて、そこも「異なる」と感じた所以なのかもしれません。

――『星と月は天の穴』というタイトルが非常に文学的です。

 言葉と遊んでいる響きがあり、とても美しいタイトルだと思います。天に浮かんで見える月や星は、実は天に穴が空いてそう見えるのだという解釈はすごくロマンがありますよね。同じものを見ていても、どこに着目して見るかで切り取り方が違ってきます。

 そういう、視点の切り替えのような、こんな素敵なタイトルを生み出された吉行淳之介さんに感服いたしました。

――「愛すること、愛されることを、恐れながらも求めてしまう」という矛盾については、どう解釈されましたか。

 どんなことにも別の側面があり、矛盾のない人生はないと思います。生きているといろいろなことが起こりますが、偏ったものを排除するのではなく、何が偏っているかを見極めることで見える景色もあります。

 本作もある意味、偏ってはいますが、文学的に日本の激動期を映し出していて、排除されるどころか挑戦的な作品になっています。

――チャレンジングな本作は、綾野さんにとってどのような位置づけになりましたか。

 ひとつの答えが得られたように思います。これまでは挑戦してゴールにたどり着くということが多かったのですが、本作はゴールテープを切った先にある荒井監督が描いていた世界に少しだけたどり着けた気がしています。

 監督は、自身の血肉になったものを信頼して積み上げてきた方です。同じ境地には永遠にたどり着けませんが、役者として、新たな境地へ鍛錬あるのみです。

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綾野剛(あやの・ごう)

1982年1月26日生まれ、岐阜県出身。2003年俳優デビュー。近年の主な出演作品に、「地面師たち」(24年/NETFLIX)、『カラオケ行こ!』(24年)、『でっちあげ~殺人教師と呼ばれた男』(25年)『愚か者の身分』(25年)などがある。

映画『星と月は天の穴』

脚本・監督:荒井晴彦
出演:綾野剛 咲耶 田中麗奈
原作:吉行淳之介「星と月は天の穴」(講談社文芸文庫)

2025年12月19日(金)テアトル新宿ほか全国ロードショー
©2025「星と月は天の穴」製作委員会
製作・配給 ハピネットファントム・スタジオ

衣装協力 King of Fools

お問い合わせ先 @kingoffools_designers_vintage

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