【WOMAN】
ラブストーリーの味もある
「食」がテーマのミステリー
名探偵の名は明智小五郎……ではなく、明智五郎。表参道の一等地にあるビルに「江戸川探偵事務所」を構える探偵で、とびきりの美食家だ。むりやり引っ張り回される助手役は、ワゴン販売のお弁当屋さんをやっている小林一号(本名は「苺」)。そんな2人が「食」の絡んだ殺人事件に次々遭遇し、犯人が仕掛けたトリックや意外な動機と向き合う――。
本作は何よりもまず、連作形式の本格ミステリーとして、一篇一篇のクオリティが高い。そのうえで、本家の明智小五郎シリーズでは殺人を嫌っていた宿敵「怪人二十面相」の代わりに、殺人を嗜好する悪女を宿命のライバルの座に置いた。彼女は自ら手をくだすこともある。だが、基本は犯罪をプランニングする、黒幕だ。出会っているようで、出会えていない宿敵同士は、犯罪者を間に挟んで、心の交流を続ける。その様子はまるで、ラブストーリーのよう。名探偵の心を最も魅了するのは、名黒幕なのだ。
『美食探偵 明智五郎』(既刊3巻) 東村アキコ
ギャグ作品に定評のある著者が初めて挑んだ探偵物。ホテルの朝食を食べて死んだカップルの謎、路地裏のフレンチレストランで発生した窒息死……。小さな物語と大きな物語を共存させながら進む、海外ドラマのようなストーリーテリングにも魅了される。『Cocohana』連載中。
集英社 419円
Column
男と女のマンガ道
男と女の間には、深くて暗い川のごとき断絶が横たわる。その距離を埋めるための最高のツールが、実はマンガ。話題のマンガを読んで、互いを理解しよう!
2017.09.05(火)
文=吉田大助