2_天満・天六にひっそり佇む老舗「うまい屋」の風景と味わい
大阪・天神橋筋六丁目駅から歩いて数分。天五中崎通商店街(通称「おいでやす通り」)を抜けた路地に、ひっそりと佇むたこ焼きの名店。1953年(昭和28年)創業、地元に根づき、時に話題を呼びながらも、静かにその暖簾を守り続ける「うまい屋」です。
華美な装飾のないその佇まいには、大阪の“粉もん文化”を支える誠実さがうかがえます。Netflixの番組で取り上げられたこともあり、地元だけでなく遠方からの訪問者も。
たこ焼きメニュー1種類のみ。“素の味”へのこだわり
うまい屋の特徴のひとつは、飾り立てないシンプルなスタイル。基本的に、メニューは「たこ焼き」のみで、トッピングはなし。基本姿勢は「素」の状態で味わってもらうこと。ソースをかけたい人には卓上で用意されていますが、まずは何もかけずに楽しんでほしい、という店の思いがそこにあります。
実際、焼きあがったたこ焼きをひとつ口に含むと、まず香るのは、だし。外側はカリッと焼き上げられ、中はふんわり、中央部はトロリと残る部分も。複数の食感が舌の上で感じられ、その余韻に思わずうなずいてしまいます。
その後、好みのタイミングでソースを少しかけて味変を。うまい屋のソースはあっさり系で、かけすぎてもだしやタコの風味をなくさないのだといいます。
銅板・二度流し出汁・焼きの技
“味の決め手”には道具と焼き技術の工夫が欠かせません。うまい屋では、熱伝導率に優れた銅の金型(銅板)が使用されていて、穴が小めの銅板を使い、生地を少量ずつ足しながら焼いていきます。
特筆すべきは「だしの二回流し(だしを二度流し込む手法)」。この方法は、まず通常の生地を流し、その後形が整ってきた段階でさらに出汁を回しかけるというもの。これにより外側の焼き目をつけつつ、内側には、だしの旨味をしっかり残すという両立が可能になります。
こうした地道な工夫なしには、「外は香ばしく、内側はふんわり、さらに内部に口当たりの違いを残す」という食感は生まれません。まさに「シンプルに見えて奥が深い」たこ焼きです。
紆余曲折の歴史を経て大繁盛店へ
創業以来、70年を超える歴史をもつ「うまい屋」。その道のりは平坦ではなかったそう。過去には火事で全焼し、店を一時休業せざるを得なかった時期もあったといいます。その際、タコのモチーフ看板のみが奇跡的に残り、それを支えに再建したというエピソードも。
地元での信頼も厚く、商店街の買い物客、日常客、観光客……さまざまな人々がこの店を訪れます。筆者が訪れた平日昼過ぎでも、できたてを求める人が続々とやってきて、店内はあっという間に満席に。
「ミシュランガイド京都・大阪」版や、Netflixのドキュメンタリー番組「ストリート・グルメを求めて:アジア」にも登場したことで、海外からの観光客も足を運ぶ店になりました。
なぜ「うまい屋」に、人々は魅了されるのか
大阪には無数のタコ焼き屋がありますが、その中で、飾らず素材や技術を大切に守り続ける店はいくつもありません。「うまい屋」は、トレンドに流されず、看板を守り、技を研ぎ、だしを信じてきた店。その姿勢がすでに「看板」そのものになっています。
この店のたこ焼きを味わうということは、ただお腹を満たすだけではなく、粉もの文化、鉄板の術、地域とのつながり、時間の経過を味わうということ。見知らぬ土地を歩くような気持ちで、ひとつひとつ丁寧に噛みしめたい。大阪を訪れるなら、この一軒を知っておきたい。やさしくも力強い、タコ焼きの原点がここにあります。
うまい屋
住所:大阪府大阪市北区浪花町4-21
営業時間:11:30-19:00
定休日:火曜日
電話番号:06-6373-2929
