
大阪メトロ堺筋本町駅から徒歩約3分。1913年創業の喫茶店「ゼー六 本町店」は、名物の「アイスモナカ」を求める行列が、1年中、絶えません。注文があってから自家製のアイスクリームを白い最中の皮に詰める昔ながらの販売スタイル。持ち帰りは新聞紙で何重にも包んで渡されます。できたてを歩きながら食べるのもよし、レトロな店内で自家焙煎のコーヒーとのセットで味わうのも一興です。

「ゼー六」で1993年(平成5年)まで作られていたお菓子のひとつがシュークリーム。さっくりした生地の中に、ぷるんとした食感のカスタードクリームが入っていて、どこか店特製のアイスクリームを思わせる、他にない風味。そんなファンも多かったシュークリームだけを作っているお店があると知って訪ねました。
そのお店「とくいち」は、大阪メトロ北浜駅から徒歩約5分。「ゼー六」から歩くと6、7分余り。シュークリームと書かれた赤いテントが目印です。開店早々から客が次々に訪れます。

「ゼー六は、元々、祖父・廣瀬徳一が始めた和菓子屋でした。最初はたまごせんべいなどを販売していて、アイスクリームやアイスキャンデーも作っていたようです」と、孫である「とくいち」の店主・喜多慶子さん。「第二次世界大戦後、空襲を免れた店で洋菓子をを作り始め、喫茶店になったんです」。徳一さん他界後は、息子3人が「ゼー六」の店を続けます。
※その後、東大阪店、八尾山本店(旧道修町店)ができ、それぞれに3代目、4代目と代を重ねて盛業中。


「昔はロールケーキやクリスマスケーキも作っていました」。店を手伝っていた慶子さんは、父親(廣瀬徳也さん)がシュークリームを作っていたのをずっと見ていたのだそう。「そのうちアイスクリームとアイスモナカで大忙しになったゼー六は、シュークリーム作りをやめてしまいます」。

その後、何人もの常連客から「シュークリームはないの?」と聞かれ、父が作っていた祖父の味を残したいと、慶子さんは60歳で祖父の名前のシュークリームだけを販売する店「とくいち」を始めます。2年目からは娘のひかりさんが手伝うようになり、「1種類だけの、昭和のシュークリーム屋です」と、2人で店を守っています。
2025.10.12(日)
文・撮影=そおだよおこ