神戸市の西部、明石海峡大橋の袂のJR舞子駅、山陽電車・舞子公園駅からバスで7、8分。「県商前」「星陵台3丁目」のバス停から歩くこと2分程の小さなお店。格子戸を開けると、パンの香ばしい匂いに包まれます。

 今回、ご紹介するお店「RAGI(ラギ)」を知ったのは、以前、このコラムでご紹介したインドネシアのティーサロン「ティー ブティック サイータ」の紅茶コーディネーター・彩子さんに教わったのがきっかけでした。ご近所のインドネシアの方が作っているパンを、アフタヌーンティーに使っている、とのこと。一口サイズのオープンサンドがとてもおいしくて、いつか取材したいと思っていたのでした。

 9時にそのお店「RAGI」に行くと……。ケースやラック、トレイに焼きたてのパンが並び、店主・カデヘディさんが笑顔で迎えてくれました。開店を待ちかねたようにお客さんが次々に来店。その人気ぶりにびっくり。

 「RAGI」のオープンは2023年7月。カデヘディさん、通称カデさんは、1990年、インドネシア・バリ島生まれ。ミシュランで星を取るような料理人になりたいと専門学校で学びます。

 「日本のことを雑誌で知りました。魚の扱いなどがすごくて、料理人としてやるなら日本でと思ったんです」と、カデさん。

 日本に来てからは、ホテルやレストランで、お菓子作りから和食、イタリアンやフレンチまで次々に担当。魚をさばいて寿司も握ったし、薪窯でピザも焼いたと言います。

 「いろいろやってみて、いろいろな意見を言われて、何が何だかわからなくなって」と努力家のカデさん。そんなタイミングで注目したのが、パンでした。

「トレンドではなく、自分の娘に食べさせたいものを作りたい。僕にしかできないパンを作ろうと思った」

 小麦粉と水だけを用いて、自然界に存在する酵母や乳酸菌などの微生物の力で発酵させたサワー種・サワードウを使い、イーストもレーズン酵母なども使わないパン。カデさんは何百回も試作を繰り返しました。「シンプルだから難しい。温度や湿度など環境も日々変わるし、時間もかかる」。ひとつのパンが完成するまでに、3日も4日もかかるのだそう。

 乳酸菌や酢酸菌による発酵で生まれる、独特の風味とほんのりとした酸味があり、保存性も高いサワードウブレッド。

「発酵が大事。何種類もの小麦粉を使い分けているし、小麦粉、水、塩、他の材料についてもいろいろこだわっているけど、産地などを細かくは表記していません。シンプルにおいしかったとリピートしてもらいたいから」

「RAGI」のパンをご紹介しましょう

 お店の顔である「田舎パン」は、水と小麦粉と塩だけで作ったシンプルなパン。定番は「全粒粉」「ライ麦」「クルミ」。時々「クランベリー」や「レーズン」などが登場します。ハーフでも販売されます。

 どれも直径20cm以上と大きくて、こんがり焼かれたおいしそうな茶色。お店でスライスしてもらって、食べる時に、フライパンで蓋をして蒸し焼きにするのがオススメです。

 生地はしっとりしていて、さっくりした歯ごたえ。噛むほどに粉の甘みと風味、サワードウの酸味が広がります。チーズやハムはもちろん、どんな料理にも寄り添う優しい味わい。和食にも合いそう。数日たっても硬くなりません。

 ライ麦100%の「黒パン」は、カデさんの一番のお気に入り。毎週買いに来るお客さんもいるとか。しっかりした酸味が特徴で、噛むほどに甘みを感じます。薄くスライスして、ハムやチーズ、ジャムやマーマレードを合わせたい。

 小さなパンの代表は「シナモン」。表面にシナモンシュガーを振った少しだけ甘いパン。ほんのり、さわやかなシナモンの香りが後口に残ります。そのまま食べてもいいし、カデさんは「野菜、果物、肉や魚と食べてもおいしい」と微笑みます。小さなパンも、水、小麦粉、塩で発酵。イーストは使いません。

 小さなパンにはいろいろな種類があります。

 「シナモン」の表面にレモンゼスト入りのアイシングをした「レモン」、ゲランド塩を入れて、きりりとした塩味に仕上げた「塩」。さらに、切り目にアーモンドクリームを塗ってスライスアーモンドをトッピングした「アーモンド」、チョコチップ入りの「チョコ」。そして、切り目にチーズを塗り、表面にチーズをのせて焼いた「チーズ」は、時々でチーズが変わり、取材時はゴルゴンゾーラ。

 ワインやビールと好相性です。他にはないパンばかりなので、ハマってしまいそう。小さなパンは、どれもおやつにぴったりです!

2025.07.13(日)
文・撮影=そおだよおこ