秋元康さんの解説には嘘がない
――そんな両賞の話から、菊池寛という人が出版社を立ち上げ社長になっていくところまで、生き生きと活写していただいたのがこの小説です。書き終えてみていかがですか。
門井:菊池寛が文藝春秋で最初に作ったのは雑誌です。菊池寛が作ったというよりは、こんな薄い同人誌ですから、若者にちょっと作らせてやった、ぐらいの感じだったと思うのです。その時にはまさかこんなに、100年も続くような雑誌になるとは思っていなかったのではないでしょうか。
ところが第1号から思いのほか売れてしまい(笑)、その後、号を追うごとに順調に売上を伸ばしていくとなった時に、菊池寛の方が認識が追いついたといいますか、これはちょっとちゃんと作らなければいけないな、これは文藝春秋という会社にして、会計もちゃんとしなきゃいけないなっていう風に、売上に追いつくようにして、菊池寛も、単なる作家から企業人になっていったということかなと思います。
――文庫化にあたり、なんと秋元康さんが解説をご担当くださったのですが、お読みになって何か思ったことありますか。
門井:素朴な感想なんですけども、秋元康さんって本好きなんだなって思ったんです。それはもうとても嬉しいし、だからこそ、この人は菊池寛のことを尊敬してくれる。僕の小説というよりは、菊池寛のことを尊敬してくれているのかもしれませんけれど、それも決して嘘がないと言いますか、今までの読書経験に裏打ちされた、一クリエイターのおっしゃっていることだなという気がしています。おそらく読書ということに対して自信がおありだと思うんですね。自信がなくて、読後感を述べるという感じではない文章ですから。
――菊池寛としてはやはり大衆小説こそ書きたいものだ、世の中に必要だっていう自信を持ってやってきていて、秋元さんはその辺りにもすごくシンパシーを持ってくださってるのかなと感じました。
門井:我々凡人から見ると、秋元さんもそうですし、菊池寛もそうですけれど、やっぱり、ものすごく能力のある人が、時代を手玉に取っていると言いますか、手のひらの上で転がしてるような感じに見えてしまいますけれども、いや、そうではない。
2人ともまずこの大衆社会というものを心から尊敬していて、1mmもなめていない。その上で、自分はどうするかということを常に真剣に仕事として考えておられる人だということが、まさに菊池寛と秋元さんに共通してるんだなっていう風に、僕自身が解説で勉強しました。
――最後に一言お願いいたします。
門井:とにかく、まず菊池寛という人が面白くて、エピソード満載な人なので、エピソード集だと思って読んでいただいても結構です。そこにもっと大きなストーリーももちろんございますので、それに感銘を受けていただくとなお結構でございます。ありがとうございました。

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- 文=門井慶喜
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