「貴族の館」と日本の不思議な関係

 ディナー前には、当主マルコ氏の義理の母であるヴィトリア公爵夫人が、シチリアワインをふるまいつつ、実はこのヴィラは、日本とも縁があると説明してくれました。

 イタリアを代表する作家に、これまでノーベル文学賞候補として名前があげられるダーチャ・マライーニ(1936年生まれ)がいます。

 ダーチャは、民俗学者でアイヌを研究する父フォスコ・マライーニとともに2歳のときから日本に滞在していました。しかし、フォスコがムッソリーニの考え方に反対したことから、ダーチャの家族は1943年、名古屋の反ファシストの強制収容所に収監されます。戦後、解放された家族が、着の身着のままで身を寄せたのが叔母の家であったここ、ヴィラ・ヴァルグァルネーラなのです。

 11歳からの3年間、多感な時期をここですごしたダーチャは、自伝的小説『帰郷 シチーリアへ』(原題「バゲリア」)で、盗難などにより金目のものは何一つなくなってしまった当時のヴィラの姿を克明に描いています。

左:夏の間は、食事だけの利用もできる。
右:別棟にある客室。2ベッドルーム、120平米で1泊2万円とリーズナブルだ。

 さて、ディナーの時間となりました。屋敷の資産価値が何十億円あるのか想像もつかない貴族のディナーなので、どんな贅沢なものが出てくるのかと思っていたら、キッチンにあるテーブルに集まり、パッケリとよばれる大きなマカロニのようなパスタのオーブン焼きを各自スプーンで自分の分だけすくうというシンプルなもの。あとはパンとワイン、そして食後は敷地内でとれたというマンダリン。本物の貴族は質素な日常生活を送っているのですね。

 今回、部屋の予約はAirbnb経由で行いましたが、booking.com(外部リンク)なら、登録なしに誰でも予約することができます。

 このヴィラでの滞在が素晴しかったので、2016年8月に再訪する予定です。

右上の緑の矢印がヴィラ・ヴァルグァルネーラ。周囲の住宅と大きさを比較してほしい。

Villa Valguarnera(ヴィラ・ヴァルグァルネーラ)
所在地 Via Gramsci 27, 90011 Bagheria
URL http://www.villavalguarnera.com/
※ヴィラ・ヴァルグァルネーラはソフィア・ローレンを主役としたドルチェ&ガッバーナのショートフィルムにも登場する。撮影はジュゼッペ・トルナトーレ監督。

橋賀秀紀(はしが ひでき)
トラべルジャーナリスト。筑波学院大学非常勤講師。東京都生まれ。著書は『エアライン戦争』(宝島社)など。海外渡航歴は200回以上。

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2016.02.22(月)
文・撮影=橋賀秀紀