門から邸宅は見えず、携帯で迎えに来てもらう

 ヨーロッパには、かつての貴族の邸宅が数多く残されています。ところが、それらの多くは非公開であるか、入場料を払い、昼間に見学という形でしか見ることができません。ホテルに改装したものもありますが、生活感はどうしてもそこなわれてしまいます。ところが、シチリアに、いまでも貴族の末裔が暮らす屋敷に泊まれるところがあるのです。今回は、知る人ぞ知るこの邸宅を紹介しましょう。

正面からみたヴィラ・ヴァルグァルネーラ。このヴィラがあるバゲリアは、『ニュー・シネマ・パラダイス』で知られるジュゼッペ・トルナトーレ監督が生まれてから28歳まで暮らした故郷。トルナトーレ監督はバゲリアを舞台にした自伝的作品『シチリア!シチリア!』(原題はバゲリアの現地読みである「バーリア」)を撮影している。

 シチリア島の北西部にある州都パレルモ。その郊外にあるバゲリアにはオレンジやレモンの畑、そしてワインづくりのためのブドウ畑が広がっていました。17、18世紀になると、貴族たちは避暑のために、緑豊かなバゲリアにこぞって別荘(ヴィラ)を建てるようになります。現在はパレルモのベッドタウンとなっているバゲリアですが、一部のヴィラは当時のままの姿で残っています。

この貴族の館に、今もその末裔が住んでいる。

 そのなかでも最大のものが今回宿泊したヴィラ・ヴァルグァルネーラ。敷地は7000平方メートル。門から邸宅は無論見えず、携帯電話で当主のマルコ氏(外部リンク)に車で迎えに来てもらいました。

 マルコ氏はイタリアとスコットランドの血を引いた新進気鋭のファッションデザイナー。彼のブランドであるキンロックは日本でも多く扱われています。しかし、実際に会ってみると非常にラフなかっこうをしたフレンドリーな青年。車もごくふつうのセダンです。

 ライトアップされたバロック様式のヴィラ本館をはさんで、ゲストが宿泊する離れがあります。アンティークの家具を用いつつ、間接照明で照らされた室内は3部屋に分かれ、120平方メートルとホテルのスイートルームなみの広さを誇り、宿泊料はなんと一泊15,000円なのです。

ヴィラは丘陵の頂上にあり、昼間は、テラスから地中海と盆地が見渡せる。盆地は、肥沃なことからコンカドーロ(黄金の盆地)と名づけられている。

 当主のマルコ氏から、ちょうど友人を招いてディナーがあるので来ないかとのお誘いを受けました。古いイタリア映画に出てきそうな階段を上がり、2階のエントランスの重い扉の奥には、高さ10メートルはありそうな天井に肖像画がかかる、正真正銘の貴族の館の世界です。

 2011年にこの館で映画祭が開かれるのにあわせて全体的にリノベーションが行われたため、非常に美しい状態に保たれています。子ども部屋には、おとぎ話に出てくるような天蓋付きのベッド。ちなみに44,000円ほどかかりますが、本館のスイートに泊まることもできます。

左:ワインを片手に、当主から館の歴史を伺う。
右:子ども部屋には天蓋つきのベッド。

Kinloch(キンロック)
URL http://filorosso.jp/kinloch/

2016.02.22(月)
文・撮影=橋賀秀紀