LOVE:ピータン豆腐
独特のたたずまいで、悶えるほど美味!

白金|ロウホウトイ

 かつて恵比寿にあった中華料理「ロンフウフォン」が大好きで、せっせと予約を入れては通っていた。シェフが体調を崩して閉店してしまい、寂しい想いをすること数年。姉妹店の「ロウホウトイ」もあるのだが、普通の広東料理なのでちょっと違う。微妙に恵比寿三丁目のあの通りから遠ざかっていた。

 そんな折、同業者から「ロウホウトイに駆けつけて!」という。なにやら楽しいことになっているというではないか! そしてさっそく連れて行ってもらったのである。

ピータン豆腐。セメントのように見えて、この灰色が悶えるほどおいしいのだ……。

 「ロウホウトイ」に駆けつけると、なんと違うお店になっている。以前からお弁当を売っている向かいの「ロウホウトイ売店」に目を向けると、なんとロウホウトイがそっちに! いそいそと道を渡り、自動ドアの前に立つと、ああ、懐かしいロンフウフォンでサービスをしていたオーナーの森田さんが!

 「時間があるなら寄っていって」「いやいや、食べるつもりで来たんですよ~」と店内に入ると、10人ほど座れる、流行の(?)ロングテーブル。そして、黒板には森田さん直筆の懐かしい文字でおいしそうな料理名がずらりと並んでいる。

 ロンフウフォンはコースだけだけれど、黒板から料理を選ぶスタイル(本当は決まっていたのかもしれないけど、いつもいくつか選ばせてもらっていた)で、いつもこの文字を前になにを注文すべきか死ぬほど頭を悩ませていたものだ。同行者も合流し、あれもこれもと思いつつアラカルトで。なにが驚いたって、ついに森田さんが自ら腕を振るうという!

 なんといってもロンフウフォン時代から必ず食べていたピータン豆腐ははずせない。よそのピータン豆腐とは全然違い、豆腐の上にまるでセメントのようなピータンのペーストがかかる。このピータンペーストがなにしろおいしい。熟成したピータンにごま油や甘みを加えてガーッとしているらしい。豆腐も粗く砕いて、干しえびなどが入っている。甘くてパワフルなピータンペーストを、この優しい豆腐が受け止めるのだ。全体になめらかで、旨みがうわ~っと広がる。懐かしくて涙が出そう~。

チリチリと煎られた豆類。通常はいんげんのみと思われる。

 森田さんがロンフウフォンに引けを取らない料理の腕前を持っていることにも驚きつつ、紹興酒をちびちび。「野菜も食べねば」と注文したのは、いんげん。「いいそら豆があるから」と盛り合わせにしてくれた。熱い鉄板で弾けるように焼かれた豆はなぜこんなにおいしいのか。いんげんはしんなりするくらい火を入れて、そら豆はホクホクに。にんにく醤油がラフにかかっていて、つけたりつけなかったりしながら味わう。

 黒板の中で異彩を放っていたのが「ローストビーフ」「ハンバーグ」といった「バナナ牛」のコーナーだ。「興味深いから注文してみよう!」となり、しかもダメ元で「ごはんも食べたくなっちゃうかも」と言ってみたら、「つけましょう!」とのこと。アラカルト万歳!

バナナ牛のハンバーグ! 通常はマヨネーズ入りのソースだそう(苦手なので入れないでいただいた)。

 というわけでハンバーグが登場。付け合わせはなく、ふたつコロコロと置かれた小ぶりのハンバーグ、これがおいしいこと! バナナ牛はマダムの地元・北海道の生産者から届くものらしく、ハンバーグにしてもなんたって力強い味を放っていた。やはり北海道のホースラディッシュのソースなので、なおさらごはんに合って合って……。

2016.02.17(水)
文・撮影=北條芽以