インドネシアにおけるJ-ROCKというジャンルとは?

山口 J-POPという呼称が一般的になって、最近は、J-ROCKという言葉も聞くようになりました。

伊藤 J-ROCKですかぁ。正直、あまり馴染みがないですが、CD屋さんとかでそんなコーナーをみたような……、海外でよく使われているということでしょうか?

山口 目にするようになりましたね。海外では国によっては、J-ROCKというと、いわゆるビジュアル系バンドを指す場合もあるのですが、例えばインドネシアでJ-ROCKというと、ギターロック、僕らが下北沢系と呼ぶようなジャンルも含んで使われています。ジャカルタのCDショップのJ-ROCKコーナーでCDをまとめ買いしたのですが、どのバンドも、ギターのコードストロークが主役のサウンドで、必ずサビがあるような構成の曲でした。インドネシアの若者からは、「洋楽」と「J-ROCK」は別のカテゴリーとして捉えられているのだなと興味深かったです。そんな観点で言うと、今回の「ing」は、J-ROCKの王道を行っているなと感じました。

伊藤 話を聞くと、結局のところJ-ROCKはミスチルから始まっていると言っても過言じゃないようにも思えますね。そうなれば、ミスチルと同じく小林武史プロデュースだったレミオロメンのヴォーカル、藤巻亮太の「ing」がJ-ROCKであることは必然ですよね。その歌詞は悲しいくらいにリアリティのある世界観。歌い出しの「今年はどんな一年だったかな」でグッと掴まれるし、一度J-ROCKのテッペンを見てしまったロックバンドのヴォーカリストが歌うには、あまりにも哀愁ただよう内容になっていますね。

山口 なるほど。「粉雪」と同じ冬の歌ですね。

伊藤 はい。10年分の人生の重みを感じる曲です。10年前(正確には9年ですが)にこぞって「粉雪」をカラオケで歌った人たちに、今度は藤巻亮太の「ing」を歌ってもらえれば、時の重みを感じてもらえる内容になっていますね。

「ing」の歌詞から浮かび上がってくるロックスターの姿

山口 そんな「ing」の歌詞からどんな世界が浮かびますか?

伊藤 オレは病院のベッドに横たわっている。意識は朦朧としているが、自分がどんな状態なのかは良く分かっているつもりだ。左腕の2、3カ所の骨は折れているし、肋骨の奥の方には今まで感じたことのない痛みがある。この痛みの原因をはっきりは覚えていないが、数時間前までなにかの華やかなパーティーに出席していて、酷く酒に酔っていた。オレ以外の全ての人が幸福にみえて、彼らを嫉み、あらゆるモノにあたり散らした。着飾った女どもにも、やけに赤いワインにも、大理石の壁にも、真っ黒なメルセデスにも。

 10年前、自分こそが主役だった。やること全てに皆が目を輝かせた。ある時なんて、オレがトイレで鼻唄を歌っただけでワイドショーのニュースになったもんだ。それが今はどうだ。ベッドに横たわり、冬に死にゆく虫のように震えている。そして最悪なことに、目の前にはコイツ(今の主役)がオレを憐れむように見下ろしている。オレのファンだとか、尊敬しているだとか、吐き気のするようなことを言っている。その横でオレのマネージャーがインドの置物のように相槌を打っている。このマヌケな骨董品は頭の中で札束を数えているんだろう。

 きっとオレが目を開けたまま寝ているとでも思ったんだろう。さすがにコイツも一方的な会話に飽きたとみえて、そろそろ失礼するとマネージャーに目で合図を送る。そしてもう一度オレのことを見下ろす。その顔は露骨に“ザマアミロ”という表情だ。端正な顔立ちは守っているが、目は欲望に溺れた魚だ。オレは冷静だ。驚く代わりに“コイツをナイフで滅多刺しにしたい”と思う。だが、その直後に霧が雨に洗われるように意識が冴える。そして思い出す、コイツは10年前のオレじゃないか。“コイツは10年前のオレじゃないか!”

山口 作詞アナリスト伊藤涼は絶好調ですね(笑)。刺さりました。

藤巻亮太「ing」
ビクターエンタテインメント 2014年12月17日発売
初回限定盤CD+DVD1,800円、通常盤CD1,200円(税抜)
■藤巻亮太は、2003年にレミオロメンのメンバーとしてメジャーデビュー。12年2月にバンド活動の休止を発表し、シングル「光をあつめて」でソロデビューを果たす。2年ぶりのCDリリースとなる本作には、映画『太陽の坐る場所』主題歌となった「アメンボ」なども収録。
■「ing」作詞・作曲/藤巻亮太
■オフィシャルサイトURL http://www.fujimakiryota.jp/index.php

2014.12.14(日)
文=山口哲一、伊藤涼