資料提供を拒否する某レーベルの姿勢への疑問

伊藤 さて、もう1曲を選ぼうと思ったのですが、レコード会社から資料提供を断られて、気持ちが萎えましたね。

山口 僕らが嫌われているんですかね?(笑) 丁寧にお願いをしているはずなのですが、リリース前の新曲をCREA WEBで紹介すると言っているのに、資料提供を断る理由がわからないです。文藝春秋は、そんなことにはビクともしないので、わかる範囲の情報で自由に書いて下さいというスタンスです。断れば、誤解されるリスクはむしろ高まるのに。アーティストのためではなく、誰かに叱られないために仕事しているんですか? って言いたくなります。

伊藤 実際そうなのかもしれませんよ。こっちとしては結果、公式資料がないとあまり詳しい情報はないし、歌もYouTube のShortバージョンしか聴けていませんので、良い声としか言いようがない。しかし、なんでレコード会社の宣伝は資料の出し惜しみをするんでしょうかね。意味がわかりません。せっかく良いアーティストだから紹介したいのに……。同業者なので、けなすことはせずに、良いところを見つけて褒める、というのをコラムを始めるにあたって決めたのに……。そーゆうことが伝わらないのは残念ですね。ちなみに藤巻亮太のレコード会社、SPEEDSTAR RECORDSからはちゃんと丁寧な資料提供ありましたけど。

山口 アーティストを大切にするレーベルですからね。藤巻亮太は、デビュー元のレーベルに戻った安心感も感じます。ちなみに、資料提供を断ってきた某大手レコード会社のアーティストのYouTubeを見ていて気づいたのですが、ミュージックビデオのショートバージョンをアップしているのに、冒頭に広告入れているんですよ。あり得ないと思います。広告収益を上げるプラットフォームと考えるなら、ユーザーが望むフルサイズをアップしてしっかりマネタイズすれば良いし、YouTubeが楽曲宣伝の場だからショートサイズしかアップしないというのなら、広告は入れるべきじゃないですね。ユーザーに対する基本的な姿勢が間違っていて、絶望的な気持ちになりました。よく見てみたら、制作チームは僕の友達なので、音源を取り寄せること自体は可能なのですが、面倒に巻き込むことになりそうで、やめました。なんだか意味不明です。

伊藤 それに“そのアーティスト”のリリース形態やタイアップをみても、アーティストのイメージなど関係なく、「こうすれば売れる」という手垢のついた宣伝・販促の極みなんですよね。こんなに安売りされて、寿命を縮めているようにしか感じませんね。スタッフはもっとアーティストとユーザーを繋ぐ責任を感じないと、良いものを残していくことはできない。僕らはその小さな窓口にすぎませんが、間違ったことは発信していないつもりですし。

山口 まあ、このコラムの影響力がもっと上がれば、レーベルの態度も変わると思うので、それまで頑張りましょう。

山口哲一 (やまぐち のりかず)
音楽プロデューサー、コンテンツビジネス・エバンジェリスト。(株)バグ・コーポレーション代表取締役、「デジタルコンテンツ白書」(経産省監修)編集委員。プロデュースのテーマに、ソーシャルメディア活用、グローバルな視点、異業種コラボレーションを掲げて、音楽とITに関する実践的な研究を行っている。著書に『ソーシャルネットワーク革命がみるみるわかる本』(ダイヤモンド社)、『ソーシャル時代に音楽を“売る”7つの戦略』『プロ直伝! 職業作曲家への道』(リットーミュージック)、『世界を変える80年代生まれの起業家 ~起業という選択~』(スペースシャワーネットワーク)がある。最新刊は『DAWで曲を作る時にプロが実際に行なっていること』(リットーミュージック)。詳細プロフィールはこちら
Twitter@yamabug https://twitter.com/yamabug
ブログ「いまだタイトル決めれず」 http://yamabug.blogspot.jp/
作曲家育成セミナー「山口ゼミ」 http://www.tcpl.jp/openschool/yamaguchi.html
WEDGE Infinity連載「ビジネスパーソンのためのエンタメ業界入門」 http://wedge.ismedia.jp/category/entertainment

伊藤涼 (いとう りょう)
音楽プロデューサー、ソングライター。ジャニーズ・エンタテイメントで『青春アミーゴ』などのミリオンセラーをプロデュース、後にフリーランスに。ソングライターとして、乃木坂46『走れ!Bicycle』、AKB48『ここにいたこと』などの作品がある。作詞アナリスト、フードミュージックプロデューサーとしても活躍。論理的で明晰な分析力に注目。著書に『作詞力 ウケル・イケテル・カシカケル』(リットーミュージック)がある。
マゴノダイマデ・プロダクション http://www.mago-dai.com/
ブログ「伊藤涼の音楽」 http://ameblo.jp/magodai/
伊藤涼が主宰する作詞研究室リリック・ラボ 
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Column

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2014.12.14(日)
文=山口哲一、伊藤涼