音楽ビジネスとITに精通したプロデューサー・山口哲一。作詞アナリストとしても活躍する切れ者ソングライター・伊藤涼。ますます混迷深まるJポップの世界において、この2人の賢人が、デジタル技術と職人的な勘を組み合わせて近未来のヒット曲をずばり予見する!

さて、近々リリースされるラインナップから、彼らが太鼓判を押す楽曲は?

【次に流行る曲】
いきものがかり「GOLDEN GIRL」

肩の力の抜けたバンド名に時代の空気を感じた

伊藤 今回はいきものがかり「GOLDEN GIRL」です。メジャーデビューから9年目の通算29枚目のシングルで、TBS系ドラマ「女はそれを許さない」の主題歌になっていますね。

山口 もう8年も経つんですね。

伊藤 ですねぇ。今では、NHK紅白歌合戦の常連になっていますし、知らなかったんですけど、2010年に発売したベストアルバムは累計出荷170万枚だそうですよ。それに去年出したアルバム『I』で、アルバム6作(ベスト盤を含む)連続でオリコンウィークリーチャート初登場1位を獲得しているって、ある意味国民的バンドになっていますね。それでも、いままでの28作のシングルは一度もオリコンウィークリーチャート1位を獲ってないって、なんか面白いですよね。いかにも今の日本のチャートだなって感じで。でもそれって、いきものがかり=クリエイティブ&アーティストだってことを強く指標していますよね。
 バンド名は小学生の時に金魚に餌をあげる「生き物係」であったことから来ているらしいんです。それに、男性陣ふたりは小さいころからの知り合いみたいだし、ヴォーカルの女の子も同級生の妹ってことで一緒にバンドをやりはじめたみたいだし、なんだか幼馴染的な空気をもったバンド。

山口 そうですね。バンド名にも流行り廃りがあって、「いきものがかり」が売れた時は、その肩の力の抜け方に、時代の空気を感じたのを覚えています。僕は、同時期に、ピストルバルブという10代女の子10人がホーンを吹きながら歌うバンドをデビューさせてたんですよ。アーティスト名の話は、以前もこのコラムでしましたが、「ピストルバルブ」って振りかぶって全力投球みたいなネーミングに感じませんか? 実際、デビュー前にアメリカ横断ツアーをさせて、評判良かったりして、プロデュースチームは気合い入っていたんですけど、「え、いきものがかりでいいの? そういう感じが売れるの?」って、肩すかしをくらったような気分になった記憶があります。

伊藤 そういうのってありますね。「ケツメイシ」が出てきたときには、片仮名で意味が分からないのって“あり”なんだ、と思ったし。「きゃりーぱみゅぱみゅ」は、噛んじゃっていえないっていうのが初動の売りになったし。アーティスト名ってそのアーティストの体を表すことはもちろん、アイコンとして世間に与える印象も大きいですからね。僕の場合は「いきものがかり」って最初は妖怪かなんかだと思って、ユルいと言うよりはオドロオドロしいと思ったんですけど(笑)。だからもっとマイナーなロックバンドかと思ってました。

2014.10.30(木)
文=山口哲一、伊藤涼