音楽ビジネスとITに精通したプロデューサー・山口哲一。作詞アナリストとしても活躍する切れ者ソングライター・伊藤涼。ますます混迷深まるJポップの世界において、この2人の賢人が、デジタル技術と職人的な勘を組み合わせて近未来のヒット曲をずばり予見する!
さて、近々リリースされるラインナップから、彼らが太鼓判を押す楽曲は?
【次に流行る曲】
サザンオールスターズ「東京VICTORY」
カネやんとイチローと長嶋を合わせたような存在
山口 今回は、サザンオールスターズの新曲を取り上げますか? 大定番じゃないですか?
伊藤 はい、メインストリームとニッチを使い分けて、皆さんを飽きさせないよう努力しています(笑)。さて、その日本を代表するバンドのサザンですが、35年以上のキャリアをもつモンスターバンドです。
山口 デビュー以来、ずーーーっと、音楽界の最高峰にいつづける、まさにモンスター的な存在ですね。日本の音楽シーンのトップクラスにいる最長不倒記録を継続中です。野球選手で言えば、400勝の金田正一と4000本安打のイチローと記憶に残る長嶋茂雄を全部足して割り算しない、そんな存在。今更、何を語るんですか? このコラムは、そもそも良いところを褒めるのがコンセプトですけど、サザンは褒めることしかないですよ。ただただ完璧脱帽、全身脱毛です。
伊藤 おっ、オヤジギャグ! 珍しいですね(笑)。山口さんを脱毛させるディテールを教えてもらえますか?
山口 たくさんありますよ。まず、ともかくずっと売れている。メジャー感で輝いているのが驚異的です。ポップスというのは、時代を反映します。昔は流行歌と呼んだくらいですからね。時代は変化していくので、ファッションと一緒で、流行ったものは廃れるというのが運命。ちょっと古いね、ってなってしまう。
例えば、ユーミンこと松任谷由実は、若い女性の心とファッション、生態を見事に描いてた時期があった。みんな私のことを歌ってくれると思っていた、でも、いつのまにかズレていく。これは当然のことですよね。
伊藤 なるほど。
山口 ところが、サザンは古くならない。いつも時代に寄り添っている。同時に、基本である「桑田節」みたいな部分は、ぶっとくて変わらない。
伊藤 桑田節ですか、なんとなく分かります。ガキのころから兄貴の持っていたカセットで聴いていましたけど、サザンってほかの音楽とは違う空気を持っていましたねー。その頃、なんといっても「いとしのエリー」がTVドラマ『ふぞろいの林檎たち』の主題歌として何度も流れて、いつも良い所で「エ~~~リィ~」って終わってしまう所が印象的でしたね。この曲のカセットは持ってなかったはずなんだけど、小学生のころから完璧にフルサイズ歌えましたね。
山口 僕は、デビューの頃、司会が久米宏と黒柳徹子だったTBS「ザ・ベストテン」で観たのが衝撃でした。「勝手にシンドバッド」って、今思えばめちゃくちゃな歌だったけど、子供だったから、自然に受け入れました。
伊藤 「勝手にシンドバッド」はリアルタイムで聴いていないんですけど、レジェンド・ソングですね。ディレクター時代、曲発注のリファレンスとしてこの曲をよく使いました。そのころ、コンペという曲の探し方が主流になってきて、どうしてもコンペ向きの曲ばかりが集まるようになってしまったんですよね。そうすると、構成や仕掛けが同じような“ちゃんとした”曲ばかりになって退屈していたので、ハチャメチャな曲のサンプルとして登場してもらいました。「こんなんだしてこいや!」という作曲家への挑戦状みたいなもんだったんですけど、その時に改めてこの曲を聴き、この曲の偉大さに気づかされた。
2014.08.31(日)
文=山口哲一、伊藤涼