桑田佳祐に関する悪い噂は聞いたことがない
山口 音楽的にも多大な影響をJポップに与えていると思います。サザン以前と、サザン以後でJポップは変わりました。Jポップに教科書ができたら「サザン以後」という概念が載るでしょうね。一番大きいのは、歌詞の発音だと思います。日本人に対して日本語で歌っていると母音の発音が変でも意味は通じるというのを利用して、「ア」でも「エ」でも「イ」でもいい、音楽的に乗りが良いことを優先します。
伊藤 極端にノリ重視な歌い方がアイデンティティになったんですね。当時は「こいつ何うたってんだ?」的な批判もあったんでしょうけど。
山口 日本語をロックに乗せたのは、はっぴいえんどというのが定説ですが、洋楽的なリズム、メロディでもJポップにできる。発音を変えちゃえばいい、っていうのはサザンの発明だと思います。言葉の持つ本来の響きを大切にしようとするべきという信念の作詞家先生は怒っていたでしょうね。当時桑田さんが出した書籍のタイトルが『ただの歌詩じゃねえか、こんなもん』で、めちゃカッコイイと思いました。
伊藤 センセイ方は「君はなにをやっているんだ、こんなのダメにきまってるだろ!」って怒ってたでしょうね(笑)。だけど、サザンがいたから今のJポップがある。サザンは当時の“壊し屋”だったんでしょうね。あとは歌い方だけじゃなくて、ビジュアルやパフォーマンスでも世の中の度肝を抜きましたよね。僕も『NUDE MAN』のジャケのケツで衝撃をうけたり、エロい歌詞にドキドキしたり、別にファンってわけではなかったんですけど、毎度毎度の仕掛けに楽しませてもらいました。サザンは僕にとって青春のBGMという存在です。
山口 男女両方にファンが多いのも特徴ですよね。中高生の性教育にも貢献していますよね。今回のシングルもカップリングは、エロ曲ですよね。もうすぐ還暦なのに、堂々とエロを歌うのは、本当にカッコイイと思います。
伊藤 桑田節のぶっといところってエロなんじゃないんですかね。大人になるとエロって敬遠しがちですけど、子供も若者もエロって最重要トピックだったりするじゃないですか。それを幾つになってもエロ全開でいけるところが“ぶっとさ”になっているように思いますね。「東京VICTORY」もサザンらしくていい曲ですが、タイアップが沢山ついちゃったせいですかね、ちょっと姿勢が良すぎな感じもします。でも、カップリングはエロ曲やチカラヌケヌケ曲で遊んでいて、あ~やっぱサザンだなぁと思いました。
山口 あと、おそらく桑田佳祐という人の人間性なんでしょうけれど、スタッフや会社との関係が、ものすごく良い。悪い噂を聞いたことがないです。これも奇跡的ですね。
伊藤 ですよね。彼はスタッフがものを言える環境をちゃんと作っているようですよ。ただ黙ってついてくるスタッフしかいないようでは、ミュージシャンは成長できないという考え方なんです。これだけのモンスターバンドになっても、こういう考え方が出来るというのは素晴らしいですよね。
山口 同感です。アミューズという日本の最大手のプロダクションで、設立当時から、事務所と一緒に成長して、ビッグバンドになって、今でも所属している。大里洋吉会長をはじめ、スタッフとの信頼関係も深いようですよ。レコード会社もずっと、ビクターエンタテインメントです。デビューした頃は、ビクター音楽産業って名前だったと思いますが(笑)。
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2014.08.31(日)
文=山口哲一、伊藤涼