音楽ビジネスとITに精通したプロデューサー・山口哲一。作詞アナリストとしても活躍する切れ者ソングライター・伊藤涼。ますます混迷深まるJポップの世界において、この2人の賢人が、デジタル技術と職人的な勘を組み合わせて近未来のヒット曲をずばり予見する!
さて、近々リリースされるラインナップから、彼らが太鼓判を押す楽曲は?
【次に流行る曲】
ゲスの極み乙女。「猟奇的なキスを私にして」
アーティスト名を決める際に大切なこととは?
山口 毎回、どんな曲を選んでくるか楽しみにしているのですが、ゲスの極み乙女。とは、グッドチョイスですね。
伊藤 マニアック過ぎず、旬過ぎない、まだ柔らかい時期。
山口 アーティスト名がスゴイですね、僕は最初にコンセプトを立てて、そこからメンバーを集めてデビューさせたり、無名の新人バンドと関わるような仕事はたくさんしてきたのですが、アーティスト名にはいつも悩みます。
伊藤 でしょうね。デビュー前のアーティスト名を決めるのに、事務所社長が悩み苦しむ姿は今まで何度か見てきたので、苦心のほどは察しています。山口さんは、どういう考え方で決めるんですか?
山口 まずは、同じような名前が無いかどうか、今は、新しいものに出会ったら、ユーザーは検索する時代だから、SEO的な視点は必要ですね。似たような名前の商品があって、バンド名が検索ページの1ページ目に出てこない名前は、損なので、避けるのが原則。
伊藤 今や、何かの名前を付ける時は必須の視点ですよね。僕も、曲のタイトルを決める時は必ず考えます。曲の場合は星の数ほどあるので、絶対に被らないのは無理でも、変な作品やコンペティターになりうるアーティストの作品と“悪い”意味で被らないようにしたり、名作やリスペクトする作品のオマージュ的な見せ方で“良い”乗っかり感を出したり。それにしても、アーティスト名の場合は、活動を続ける限り背負う物になるから慎重になるでしょうね。
山口 アーティストマネージメントが僕の出自だからか、メンバーの意識は気にしますね。実際に客の目に晒される人が、その名前を背負って、自分のアイデンティティにできないと、おかしなことになってしまいますからね。
「東京エスムジカ」「ピストルバルブ」の命名の理由
伊藤 アーティストの意識とアイデンティティを、どう引き出し、どう結びつけるんですか?
山口 メンバーに対して、お題を出すというか、謎解きみたいな問いかけをするやり方が多いですね。「こんな作品をつくって、音楽シーンでは、こんなポジションを取りたいじゃん?」みたいな前提を確認した上で、本人達に考えさせて、ダメなときはNOを言うみたいなやり方ですね。おおまかな答えは持っているのだけれど、敢えて、本人達のフィルターを通して出させる訳です。
伊藤 なるほど。
山口 例えば、グローバル視点で都市カルチャーを意識しながら、ワールドミュージックの要素を取り込んだ音楽をつくるから「東京エスムジカ」とか、カッコイイ女の子がブラスを持っているバンドは、「ピストルバルブ」みたいな。女の子がトランペットなどについているバルブをピストルに見立てるとかいいでしょ?
伊藤 やっぱりアーティストの場合、本人達から発信する主張や考え、アイデアが元になっているんですね。アイドルの場合は、スタッフ側が一方的にグループ名をつけてしまうことが殆どなので、デビュー当時はグループ名が「ダサい」「意味が分からない」とか「自分で決められない」という理由で大嫌いだった、というエピソードはよく聞きます。
山口 アイドルの場合は、そんな時にプロ意識が問われるのかもしれませんね。僕の会社で長年マネージメントをしているシンガーソングライターSIONは、ラジオ番組のゲストに呼ばれた時、「何故、SIONって名前にされたんですか?」という質問に対して「いやぁ。若い頃は自分が40歳、50歳になるって思わないからさ(笑)」って答えていて。身びいきながら、カッコイイ答えだなと思いました。
伊藤 本物のアーティストは多くを語らず、ですね。
山口 あ、SION恒例の夏の日比谷野音、今年は8月16日ですから観に来てください。
2014.07.30(水)
文=山口哲一、伊藤涼