中性的な歌声がミステリアスな雰囲気を醸し出す

山口 でも、バンド名決めの時に、いつも思うのは、正解は無くて、「売れれば勝ち」ではありますね。サザンオールスターズは、日本で最も成功したバンドですが、何の前提も無くバンド名だけ聞いたら、どうなんだろう? ダメだししちゃうかもしれない(笑)。

伊藤 サザンオールスターズという名前の由来は、ニール・ヤングの「サザン・マン」とサルサグループのファニア・オールスターズからの合わせ技らしいですが、まぁ、なんとなく響きに湘南っぽさはありますよね。

山口 似合っていることが大切ってことですよね。そういう意味では、この「ゲスの極み乙女。」っていうのはどうですか?

伊藤 このバンドを初めて知ったのは、「山口ゼミ」の打ち上げなんですけど。シンガーソングライターをしながら作曲家を目指すゼミ1期生に、織部亮っていうのがいて、彼の声に似たヴォーカルがいるバンドがあるという話があがったんです。それで、そこにいた誰かが「ゲスの極み乙女。」をYouTubeでチェックしたのがきっかけ。その時は、バンド名が印象的過ぎて楽曲とかビジュアルとかはまったく覚えていないんだけど(笑)。

山口 一度聞いたら忘れないバンド名ですね。

伊藤 です。その後、ローラが出ているCMで彼らの曲が流れていて、相変わらず画像の端に表記されたインパクトあるバンド名に目を奪われたんですが、そのバンド名と似つかわしくない、繊細な少年のような歌声が印象的でした。

山口 最近、ネット上でも話題を見るのだけれど、ガールズバンドの文脈の中でも語られていることが多くて、あの声は中性的だけど男だよね、って心配になって、確認したことがあります(笑)。

伊藤 ドラムとキーボードが女性の混成バンドというところで、あの声の主が、余計にミステリアスというかファジーになっているのかもしれません。

壇蜜主演ドラマの主題歌というタイアップの相性も◎

山口 ゲスの極みも、滅多に活字で見ない言葉なのに、初のシングルの曲名が「猟奇的なキスを私にして」とは?

伊藤 “猟奇的”という言葉は、10年以上前にヒットした韓国映画「猟奇的な彼女」にインスパイアされているのだと思うんですが、バンドの作詞作曲プロデュースをしている川谷絵音がイメージする“年上のイケイケ女”がこの映画のヒロインと重なったんじゃないですかね。「ゲスの極み」と言い「猟奇的な……」と言い、棘を持ったビビッドな慣用句が印象的。

山口 壇蜜が主役のドラマ「アラサーちゃん 無修正」の主題歌っていうのは、イメージ的な相性もよいですね。アンダーグラウンドの匂いを持ちながら、エンタテインメントをしっかり意識しているという印象。

伊藤 きっとドラマサイドもバンド名で選んだんだと思いますよ(笑)。ところで、楽曲を聴いて思ったんですけど、このバンドはタイアップに寄り添ってその一部になることを楽しんでいるんだなぁと。昔はアーティスト性の高いアーティストほどコマーシャルな曲を作りたがらなかった。特にロックバンドなんかだと余計にそうで、ラジオで多く流してもらうために、尺の短い曲を作ったり、メディアやタイアップ先が喜んでくれそうな曲を作るなんて「ざけんな」と思っていた。

山口 当時は、CM制作者側もサビの長さが15秒に収まるようにとか、要求してきたりしましたからね。真摯に作品を作っている側から見ると、腹が立ちますね。

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2014.07.30(水)
文=山口哲一、伊藤涼